【コラム】金子達仁
レベル上がったアジア予選での苦闘が日本男子を強くした
2024年08月01日 22:00
サッカー
さて、すでに準々決勝進出を決めていた男子サッカーは、イスラエルを下して3連勝でグループ首位を決めた。5―0で勝ったパラグアイ戦を含め、どれも紙一重の内容ではあったものの、劣勢に浮足立つ場面がほとんど見られないのは心強い。準々決勝の相手がスペインとなったことで、いささか悲観的な声も聞こえてくるが、今大会のスペインはユーロやW杯のスペインとは違う。ウズベキスタンと五分五分の試合をやった彼らとは、十分以上に渡り合えるとわたしはみる。
日本男子のここまでの戦いを見て感じるのは、強敵と戦ってきた経験値の高さである。多くの選手が欧州でプレーしていること、またマリやアルゼンチン、フランスとテストマッチを組んだ協会の尽力も大きいが、理由としてはもうひとつ、アジア予選のレベルアップも挙げておきたい。
かつて、アジアの代表であるということは、ハンデでありコンプレックスだった。予選のレベルは低く、ゆえに本大会で面食らう。アジア予選と世界大会は、正直言って別物だった。
だが、その様相は明らかに変わりつつある。南米予選でブラジルを倒したパラグアイは強敵だったが、では、アジアで戦ったウズベキスタンやイラク、カタールより遥(はる)かに強かっただろうか。アジア予選での苦闘と、それによって引き出された活躍なくして、“国防”ブライアンの現在はあっただろうか。
最終的に、ウズベキスタンもイラクも、1次リーグ最下位で姿を消した。アジアのレベルが世界に追いついた、とまではまだ言えない。それでも、アジア予選で苦しい時間帯を経験したことは、今大会の日本にとっては間違いなく大きな力になっている。アジアでの戦いが世界での糧となる時代が、到来しようとしている。
読者の皆さんがこの原稿を読むころには結果が出ているなでしこについても触れておこう。ブラジル戦での谷川の超絶一撃について。
26年前、たったひとつのプレー、ひとつのゴールによってその名を世界に轟(とどろ)かせた青年がいた。チームは敗れたものの、以降、彼は“ワンダーボーイ”と呼ばれるようになる。谷川が決めたあのシュートに、わたしは98年W杯フランス大会でマイケル・オーウェンがアルゼンチンから奪ったものに匹敵する、あるいは超える衝撃を受けた。あの場面、あの状況で、あの一撃を決められるのは、世界でもごく限られた才能のみ。しかも、オーウェンと違い、彼女の戦いはその試合で終わらなかった。期待は、膨らむばかりである。(金子達仁=スポーツライター)