「支える」矢印の方向は一つじゃない パラ陸上・山本篤が無償でウエアにロゴを掲出したワケ
2021年09月08日 09:15
五輪

スポニチ本紙でも大会期間中は「支える人」と題した連載企画を展開した。選手に寄り添い、ともに戦ってきた周囲にスポットを当てて紹介。選手たちを「支える」裏方について知ることができるのも、パラリンピックの魅力だろう。
一方で山本は自らが率先して支えることを大切にし、行動している。東京パラの4カ月前、4月24、25日に香川で行われたジャパンパラ大会でのこと。山本が着用するユニホームには、所属する「新日本住設」のマークの他に、新しいロゴが記されていた。そのロゴの会社は、障がいのある子供たちを支援する一般社団法人「ハビリスジャパン(Habilis JAPAN)」。16年8月に設立された同法人は、義手や義足を使う子供たちの社会参加に向けた総合的なサポートを行っている。
驚くのは、無償でロゴをつけて同法人をPRしていることだ。本来なら、ロゴを付ける代わりにスポンサー契約料などの金銭授受が発生するのが一般的だが、山本の場合は違う。「金銭ではなく、自分が応援するかたちは、どのようにつくることができるのか考えた。ハビリスジャパンさんの活動を応援したいという僕の気持ち」。同法人のイベントで講演したことをきっかけに、今年4月、山本自らが話を持ちかけて実現した。
16年リオデジャネイロ大会で銀メダルを獲得するなど、今回で夏冬合わせて5度のパラ出場を誇るほどのプロ選手としては、異例の取り組みだ。同法人で理事を務める藤原清香さんは、提案を受けた時のことを「驚きましたし、感動しました。私たちは障がいのある子供たちをサポートしているから、(誰かに)サポートしてもらうことは新鮮でした」と振り返る。
義足アスリートとして世界トップレベルで活躍する山本の存在は、障がいのある子供たちへ勇気を与えている。同法人事務局長の野口智子さんは「子供たちにとっても、憧れの選手からエネルギーをもらっています。こういうふうにしたら、走ることができるんだって」と感謝した。
そして、迎えた東京での祭典。新型コロナウイルスの影響で無観客だった。それでも、山本は自分のジャンプに集中した。「障がいのある子たちが、自分も何かチャレンジしたいと思ってくれたら、僕自身のモチベーションにもつながる」。出場した走り幅跳び(義足T63)の結果は、6メートル75の4位。惜しくもメダルには届かなかったが、アジア新をマークし、自己ベストを5センチ更新した。
パラでは日本代表のユニホームを着用するため、山本の胸にハビリスジャパンのロゴはなかった。でも、確かな思いは、胸の中にあった。「義足を付けている人や子供たちが、自分もやってみたい、挑戦したいって思ってもらえるきっかけになってくれたら、うれしい。テレビを通して多くの人に通じたと信じたい」。支えるという矢印の方向――。それは、必ずしも一方通行ではない。支えてもらうパラアスリートたちも、誰かを日々支えている。(記者コラム・滝本 雄大)
おすすめテーマ
2021年09月08日のニュース
特集
スポーツのランキング
-
「支える」矢印の方向は一つじゃない パラ陸上・山本篤が無償でウエアにロゴを掲出したワケ
-
シアトルのスポーツ観戦ではワクチン証明書が必要 NFLシーホークスが第1号
-
おかえり萌寧!メジャー初Vへ主役演じる、前週虫刺されで途中棄権も全快 9日開幕日本女子プロ
-
小祝 メジャー初Vへ不振のショット修正「コーチと話しながらやっている」
-
吉田 2週連続Vで生涯獲得賞金1億円超えだ「チャンス来れば狙う」も自然体
-
ジョコ8強 52年ぶり年間グランドスラムあと3、米国勢は初の準々決勝前に全滅
-
パラトライアスロン男子銀・宇田が笑顔の報告「スポーツの持つ力を凄く感じる」
-
新関脇の明生 三役2場所目に向け「自分の相撲に集中してやるだけ」静かに闘志
-
青山&柴原組 昨年に続き8強逃す、シングルス実力者ペアに苦杯 日本勢姿消す
-
豊昇龍「体動いている」調整順調、“一番やりたかった”白鵬全休で初対戦お預け
-
大麻所持で元幕内・貴源治を書類送検 検察に刑事処分の判断委ねる「相当処分」
-
小6女児に「裸画像交換しよう」元力士逮捕 元序二段・魁舞翔、16歳女性と偽り