「終戦」のサイレンが鳴った日――甲子園球場初の黙とう試合
2017年08月16日 10:45
野球
ことしは終戦の日に高校野球がなかった。悪天候が予想されたため、朝早くに順延が発表されていた。雨はさほども降らなかったが、遠方から応援に訪れる高校野球は早期の決断が迫られる。仕方のないことだ。
8月15日に試合がなかったのは1973(昭和48)年以来、44年ぶりという。あの大会はよく覚えている。小学5年で、覚えたてのスコアブックをつけながらテレビ中継に見入った。好カードが続く日は朝から晩まで4試合記録した。朝日新聞とスポニチの2紙を切り貼りしたスクラップ帳はいまもある。
14日最後の試合は高松商・植上健治(後に阪神)―京都商(現京都学園)・小竹重行が激しい雨のなか、投手戦を展開し、ナイターとなった。9回裏、左翼線に上がった飛球を京都商左翼手が雨が目に入って捕れず、サヨナラ打となった。
15日は朝、晴れていたのだが順延となった。当時の記事を見返すと、大会本部は「グラウンドコンディション不良」で決定している。前夜の雨でグラウンド状態は実際に悪かったのだろう。
注目の「怪物」作新学院・江川卓(後に巨人)が登板予定だった。16日に延びた銚子商戦は試合中から雨が激しく降った。江川は延長12回、押し出し四球を与え、サヨナラ負けとなった。サトウハチローが『雨に散った江川投手』と題した詩を書き<雨の詩は もう作らないと こころにきめた>と結んでいる。
余談が長くなった。ことしはなかった、甲子園球場での終戦の日の黙とうが最初に行われたのは1963(昭和38)年だ。政府主催の全国戦没者追悼式が始まり、黒金泰美官房長官(当時)が当日正午に黙とうを行うよう国民に呼びかけた。甲子園もならった。
その年は第45回の記念大会で甲子園、西宮の2球場で開催された。
当日正午、甲子園では2回戦、桐生(群馬)―新潟商(新潟)が行われていた。審判が試合を止めたのは7回表、新潟商の攻撃中だった。主戦左腕だった大橋正さん(故人)を2004年、新潟市内で経営するたばこ店を訪ね、取材した。
「朝からカンカン照りでした。ジリジリと肌を刺すような感じでね。新潟の人間に関西の暑さはこたえました。あの暑さでより強く終戦を思ったんです。あの日も暑かったんだろうなあ…と」
終戦翌年の46年3月生まれ。終戦の日の模様はニュース映画で見て知っていた。当時の本紙を見返すと球児を「終戦っ子」と表現している。全員が終戦から戦後生まれになっていた。
試合は0―5。敗色濃厚だった。三塁側ベンチ前に立ち、目を閉じた。サイレンが鳴り響いた。
「目に浮かんだのは嶋さんでした」。前々回、前回の当欄でも書いた海草中(現向陽)の投手、嶋清一のことだ。1939(昭和14)夏の甲子園で全5試合完封、準決勝、決勝ノーヒットノーランの偉業を成し遂げた左腕だ。「僕は黙とうの1分間、不世出と呼ばれたあの大投手が南方の海に沈んでいった無念を思っていました」
明大に進んだ嶋は学徒動員で海軍に入隊。45年3月29日、海防艦でベトナム海上で輸送船を護送中、魚雷攻撃にあい沈没、不帰の人となった。24歳だった。
「なぜでしょう」。少年のころ、寺の境内で三角ベースに明け暮れた。嶋の偉業や悲劇は野球雑誌で読んでいた。「嶋さんは自分と同じ左投手で憧れがありました。平和な世の中で野球ができる喜びを感じていたのかもしれません」
慶応大に進み、打者に転向。大学2年秋、交通事故に遭い、野球を断念した。後から聞くと親族には「余命3年」と告げられていた。以来、車いす生活を続けていた。
甲子園の高校野球中継は店先のテレビで必ず見ていた。黙とうも欠かさなかった。「甲子園は変わりませんね」と話していた。その大橋さんも数年前、鬼籍に入った。
来年は100回大会の大きな節目を迎える。時代は変わりゆくが、大橋さんも口にしたように「変わらない」のも高校野球の良さだろう。
8月15日。ことしもまた、目を閉じ、そして祈った。 (編集委員)
◆内田 雅也(うちた・まさや) 1963年2月、和歌山市生まれ。本文で書いた大橋正さんを紹介してくれたのは新潟市出身で天満天神繁昌亭支配人を務める恩田雅和さんだった。恩田さんが和歌山放送プロデューサー時代、取材を通じて知り合った。大橋さん、恩田さんとともに、慶応大出身で野球好きという共通項もあった。
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