「習い事」としての野球はスーパーアスリートを育てる(後編)

2018年12月21日 09:00

野球

「習い事」としての野球はスーパーアスリートを育てる(後編)
試合前あいさつにベンチを飛び出す少年野球の選手たち Photo By スポニチ
 【君島圭介のスポーツと人間】6歳から14歳の成長期に養うべき運動能力があるといわれる。それが「コーディネーション能力」だ。旧東ドイツがアスリート育成のために定義したものだ。
 ジュニアアスリートにかかわる指導者なら周知だろうが、(1)リズム能力(2)バランス能力(3)変換能力(4)反応能力(5)連結能力(6)空間定位能力(7)識別能力の7項目に分かれている。

 本コラムの前編に書いた「クロスボールにタイミングを合わせられないサッカー選手」の場合は、(6)の空間定位能力が十分に養われていないと推測できる。じゃあ、クロスボールに頭で合わせる練習を繰り返せばいい。確かにそうだが選手の立場ならうんざりするだろう。サッカーが嫌いになるかもしれない。

 そのサッカー選手のコーチは「僕らは小さいときに野球もやっていた」と、幼少期からサッカーしかやらない弊害を指摘した。実は野球という競技にはコーディネーション能力を養う要素が詰まっている。投げる、打つ、捕る、走る、止まる。そこには最も高度な、道具や用具を巧みに操作するという(7)の識別能力も含まれる。つまり、野球をやれば成長期に養うべき運動能力のほぼすべてが高められるのだ。

 綱引きやビーチフラッグ、樽投げなど総合的な運動能力を、あらゆるスポーツのアスリートが競うテレビ番組で、野球選手は軒並み好成績を収めていた。そんな結果に「野球選手って凄い人の集まりなんだな」と思うだろうが、見方を変えて「野球をやることで運動能力が総合的に高くなる」ということに気づいて欲しい。

 だからと言って「ほら見ろ、野球は凄い」と短絡的に結論づけるのは間違いだ。そんなおごりが、競技人口の減少を招いてきたのだ。そこを野球界は反省すべきだ。

 では野球界がすべきことは何か。必要なのは、その競技が総合的な運動能力を高める装置であることを意識し、日本のスポーツ界全体に貢献するという広い目的で子供の指導を行うことだ。

 スイミングスクールが子供の健康増進、身体能力の開発の装置として機能し、水泳界が現在の隆盛を極めるように、野球も運動の出来る子を育てるための「習い事」として方向転換をすべきだ。かつてのように公園や校庭で野球をやって遊ぶことが競技人口拡大につながるという幻想は捨てないといけない。今の子供はそんなに暇じゃない。

 親世代が子供に水泳を習わせるもうひとつの理由は手軽だからだ。水着を持参すれば、そこにプールがあり、指導者がいる。いつまで野球を続けるか分からない習い始めの子供にユニホームを揃えさせ、高価なグローブやスパイクを買わせる必要はない。そんなことは競技を本格的に選んだ後で間に合う。まずは「習い事」まで目線を下げるべきなのだ。

 サッカーやテニスが上手になる。陸上選手や強いボクサーにもなれる。5歳、6歳の子供がもう少し大きくなって自分から好きなスポーツを選んだときに必要になる運動能力を養ってあげる。そういうスポーツ界に対する奉仕の精神で子供の「習い事」に徹すること。それが、野球という「よく出来たスポーツ」が今果たすべき役割のだ。(専門委員)

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