【タテジマへの道】近本光司編<下>故障を乗り越えたド根性魂
2020年04月26日 15:00
野球
この故障を機に、より一層体づくりの大切さを実感するようになった。1年冬から体を大きくするためのトレーニングと増量を並行して体を強くすることに軸を置いた。痛みがなくなり、再び投手に戻った2年秋からは学校の専属トレーナー・浜田友哉さん(45)のもと「浜トレ」と題して1年間で体重10キロ増を目標にさらなる全体の筋力トレーニングに励んだ。冬にかけての土日はボールを使わず、半日も負荷をかけた筋力トレーニングで体をいじめ抜いた。
2年冬に実施される体育科恒例のスキー合宿では毎食どんぶり鉢5~6杯のご飯を食べた。周りがギブアップしていく中、食堂に最後まで残り、自分と闘った。時にはトイレに駆け込みながら…。そのかいもあって体重は60キロから1年間で70キロ近くまでに成長した。最大の目標だった甲子園出場はかなわなかったが、故障がきっかけで体づくりに撤した高校時代が現在の光司の肉体をつくり上げる土台となった。
期待に胸を膨らませて関学大に入学した2013年春。投手として入部した近本だったが、その層の厚さに当初は埋もれたままの存在だった。当時部員は200人近く。投手だけでも60人近くいた。竹内利行監督(当時)にとっても印象の薄い選手だった。「入学当初の印象がほとんどありません…」。それもそのはず。同期の投手は一戦級の投手がそろっていたのだ。
中内(王子)、後藤田(シティライト岡山)の両右腕に、左腕の佐藤(三菱重工神戸・高砂)がいた。肩肘の故障に悩まされた2年間。食い込む余地がないほど厚い投手層も野手転向のきっかけになった。
OBや関係者から打者向きとの評価を伝え聞いていた竹内監督もその才能に驚いた一人だ。「3年春の開幕前のオープン戦で起用すると、よく打つんですよ。ミートがうまく、追い込まれてから逆方向へ打てる。足も速かった」。野手転向後最初のシーズンだった15年春から主力となり、打率・379でリーグ3位。ベストナインも初受賞した。
仲間を驚かせた試合がある。最終学年を迎えた16年春のリーグ開幕・立命大戦。8回終了時点で、関学大は東に無安打に抑え込まれていた。1点を追う9回。先頭の代打が右前打を放ち、1番・近本に打席が回ってきた。左前打で好機を広げ、2死から4番の右前打でサヨナラのホームを踏んだ。実はこの日の試合で一塁へ駆け込んだ際に転倒。右肘を骨折していたのだ。
鉄人級のハートも魅力の一つだろう。「リーグ戦で対戦する度に嫌でした」と東。入団初年度の今季に11勝を挙げた左腕は早くも近本を警戒している。
大阪ガスに入社した光司は1年目の夏を迎えるころになると「僕はチャンスが好きなんです」という言葉を口にするようになった。光司がいう「チャンス」とは大舞台を指す。小学生時代に野球を始めて以降、一度も全国大会に出場したこともなかっただけに、周囲は「?」だったが、決してビッグマウスではなかった。
同年の都市対抗予選でチームは本大会出場を逃す中、2試合連続本塁打を放つなどアピールした光司は三菱重工神戸・高砂の補強選手として出場。初戦のNTT東日本戦で「2番・中堅」で全国デビューを果たすと初回の中前打を皮切りに3安打を放った。自チームで出場を果たした今夏の都市対抗では5番打者として躍動。準決勝のJR東日本戦では同点の8回に右翼席へ勝ち越しソロを放つなど勝負強さも発揮した。決勝の三菱重工神戸・高砂戦でもリードを広げる中前適時打を放ち優勝に貢献。5試合で21打数11安打の打率・524、1本塁打、5打点。4盗塁を決めるなど自慢の脚力も見せつけ、橋戸賞(最優秀選手賞)と首位打者のタイトルを手にした。
「夏秋連覇」を狙った18年11月の日本選手権では初戦の鷺宮製作所戦で3安打したが続くHonda鈴鹿戦で敗退。バント安打に二盗と存在感は示したが、タイブレークに入り、2点を追う延長12回1死一、二塁では左飛に終わった。矢野監督が「2番・中堅構想」を抱くなど即戦力として期待は高い。つかんだ自信とさらなる飛躍への課題を持って、光司はプロの世界に飛び込む。(2018年11月13、14、15日付掲載。おわり)
◆近本 光司(ちかもと・こうじ)1994年(平6)11月9日生まれ、兵庫県淡路市出身の24歳。社では外野手兼投手で甲子園出場なし。関学大3年春には外野手として関西学生リーグでベストナイン。大阪ガスでは1年目から公式戦出場。今夏の都市対抗は首位打者の活躍で初優勝に貢献し、MVPに相当する橋戸賞を受賞。18年侍ジャパン社会人代表。1メートル70、72キロ。左投げ左打ち。
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