三浦隆司がケモノに変わる音――WBC世界スーパーフェザー級挑戦者決定戦
2017年02月08日 09:01
格闘技
10回、形勢をひっくり返すダウンを奪ったのは、“打ちっ放し”と表現したくなる大胆な左ボディーアッパー。三浦も「サンドバッグを思い切り打っているようなパンチが当たった。自分でもビックリした」と振り返る一撃だった。うなり声については「無意識に、気合が入って出てしまった」と照れたが、同僚のWBC世界バンタム級王者・山中慎介(34)によると、最近はスパーリングでも声を出して打っていたという。その山中いわく、12回KO勝ちして感情を爆発させた三浦は「ケモノから人間らしさが出た」。うなり声を上げて打ち込んでいる時間帯は“ビースト・モード”だったわけだ。
15年11月に米ラスベガスでフランシスコ・バルガス(32=メキシコ)に王座を奪われて以降、三浦は一発狙いに陥っていたボクシングを修正。攻防一体を意識し、足の運び方や上体の柔らかい使い方などに取り組んできた。ローマン戦では途中でド突き合いに移行したため取り組みが生きたとは言い難いが、気負い過ぎたバルガス戦に比べて「メンタルのコントロールをうまくできるようになる感覚はつかんだ」という。冷静な試合運びと、闘争本能むき出しの戦い方を組み合わせれば、相手や展開に応じて試合中の切り替えが可能というものだ。
次戦ではベルト奪回を懸け、バルガスに圧勝した新王者ミゲル・ベルチェルト(25=同)に指名挑戦者として挑む。速いコンビネーションを武器とする王者は、三浦にとってバルガスよりも戦いづらい相手で、勝つには打ち合いに引きずり込む必要がある。帝拳ジムの浜田剛史代表が「三浦は不器用そうに見えて勝負勘がある」と話すように、モードチェンジで勝負を懸ける時間帯が来るはずだ。そのスイッチを入れる声がいつ出るか。リング上からの音にも注目したい。(専門委員)
◆中出 健太郎(なかで・けんたろう) 今月で大台の50歳。スポニチ入社後はラグビー、サッカー、ボクシング、陸上などを担当。記者生活で一生忘れられないシーンは、1997年の辰吉丈一郎vsシリモンコンと、現地取材ではないものの2015年ラグビーW杯の日本vs南アフリカ。2005年、来日した若きレブロン・ジェームズに単独インタビューしたのがひそかな自慢。