薬と肉と水――ネリ&カネロ

2018年03月11日 10:15

格闘技

薬と肉と水――ネリ&カネロ
再計量もパスできず Photo By スポニチ
 【中出健太郎の血まみれ生活】世界タイトルマッチの試合前、メキシコ国歌が流れると自然と背筋が伸びる。祖国を侵略する外敵に立ち向かえ、と血なまぐさい歌詞が並び、闘志を奮い立たせるようなメロディーも決戦にふさわしい。そして、メキシコ人ボクサーたちも傷つくのをいとわず勇敢な戦いを見せ、世界中のリスペクトを集めてきた。
 そんなボクシング大国の選手たちに今後、敬意を払えなくなりそうだ。度重なる失態で山中慎介の最終章を汚したルイス・ネリに続き、元2階級制覇王者サウル・“カネロ”・アルバレスにドーピング疑惑が浮上した。5月5日のWBAスーパー&WBC&IBF統一世界ミドル級王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)との再戦を前に、自主的に受けた検査で禁止薬物のクレンブテロールに陽性反応を示した。クレンブテロールは山中との初戦前にネリから検出されたジルパテロールに似た物質。筋肉を残して脂肪を落とす作用があり、筋肉増強と減量にはうってつけだ。

 ただし、ネリと同じように、今回も「メキシコで食べた肉に成分が含まれていた」の言い訳が通り、おとがめなしとなる可能性は高い。カネロの検体を分析した米検査機関からも「食肉汚染の範囲内」と発表しており、試合開催の権限を持つネバダ州コミッションもビッグマッチを中止にするのは難しそうだ。だが、小者のネリと違い、スーパースターのカネロに対しては世界中から非難が集中している。ゴロフキンのサンチェス・トレーナーは「カネロや周囲が汚染肉のことを知らないわけがない」と意図的な摂取の可能性を指摘。カネロが今回、米国ではなく母国メキシコで練習していたことに疑いの目を向ける関係者もいる。

 近年はカネロやネリ以外にもメキシコ人選手のドーピング違反が多い。メキシコのコミッションは薬物ヘの対応はもちろん、体重超過への姿勢も甘いと批判されている。恐らくネリも、そんな環境に甘えて連勝街道を走ってきたのだろう。

 帝拳ジムの本田明彦会長によると、ネリがバンタム級のリミット53・5キロをつくったのはドーピング違反が疑われる昨年8月の山中との初戦だけ。山中への挑戦権を獲得した17年3月のWBC挑戦者決定戦でさえバンタム級を超える体重の54・9キロで戦っており、本来なら認められない。山中との再戦の前日計量でネリは最初、2・3キロもリミットをオーバーした。だが、約2時間後の再計量では1キロ体重を落としている。真面目に減量に取り組んできた選手なら簡単に1キロ落とせるわけがない。だからこそ意図的な体重超過が疑われるのだ。

 そして、体重超過はドーピング疑惑とリンクしているとも考えられる。今回のネリは試合前の薬物検査で陰性の判定だったが、体重管理を任されていた栄養士に一日に7キロ分もの水を飲まされていたという。栄養士は試合直前に水を断つ減量法がネリに合わず体重超過したと説明したが、大量の水は何かの物質を体外へ出すことが目的ではないのか。一度ドーピングで体をつくってしまったから、あるいは検査に引っかからずにパフォーマンスを維持できる体づくりを行ったから、体重を落とせなかったと考えると、つじつまが合う。日本からの永久追放は当然だろう。(専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう)51歳。スポニチ入社後はラグビー、サッカー、ボクシング、陸上、スキー、NBA、海外サッカーなどを担当。後楽園ホールのリングサイドの記者席で、飛んでくる血や水を浴びっぱなしの状態をコラムの題名とした。ネリが体重超過した日の夜は松本亮(大橋)の世界戦。試合の準備を進めるはずが、再計量で2時間も待つハメになりイライラしたが、松本―ダニエル・ローマン(米国)戦が面白い打ち合いになり、気持ち的に救われた。

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