米倉健司元会長 古いスタイルの中に新しい考え方を採り入れる とても素敵な生き方
2023年04月21日 22:47
格闘技
「おー、よく来たな。で、君はどこの社だったかな」
取材に行った1年間に名刺を渡した数だけ年賀状が来る。自宅近くに住まわせ、早朝から夜まで練習に付き合ってもらっている有望選手が、奥さまを見ると「会長の脳みそだ」と記者に笑って打ち明けられるほど、寛容な人だった。
アマチュア時代にこれ以上ない実績を残し、期待されて飛び込んだプロでは、網膜剥離で夢半ばで引退した。昔ながらの「道場」のような目白のジムは、広いフロアで3分、1分のインターバルで全員が同じ練習をした。ボクシングを志して来てくれた若者を、一人として取りこぼしてはいけない。そんな思いが、活気のあるジムにあふれていた。
「打たせずに打つ」。ボクシングのポリシーはその1点だった。カーン博士の教えを体現しようとしていたかどうかは聞かなかったが、アルバイトをしながらジムに通うトレーナーの生計にも気を使う人だっただけに、選手の「その後」も常に考えていたのだと思う。古いスタイルの中に、新しい考え方を採り入れる。古いだけ、新しいだけ、そのどちらでもない、とても素敵な生き方が、今になると、とても身に染みる。(鈴木誠治 92~96年ボクシング担当、現東京本社編集局次長)