前田日明氏 もしもカール・ゴッチがクインテットに出場したら…

2023年09月25日 09:00

格闘技

前田日明氏 もしもカール・ゴッチがクインテットに出場したら…
QUINTETについて熱く語った前田日明氏 Photo By スポニチ
 【牧 元一の孤人焦点】元格闘家の前田日明氏(64)がインタビューに応じ、今夏からスーパーバイザーを務めている格闘技イベント「QUINTET(クインテット)」について語った。クインテットは2018年に格闘家の桜庭和志(54)が始めたもので、打撃を禁止し、関節技や絞め技で勝敗を決する。その魅力や現状、課題は…。
 ──前田さんはもともと桜庭さんを格闘家としてどう見ていましたか?
 「よく頑張ったと思いますね。UWFを立ち上げた頃、自分たちの次の世代、その次の世代くらいに凄いやつが出てくるんだろうな、と言っていたんですけど、それが桜庭だったんです。自分らは試行錯誤で、作り上げるのが精いっぱいでしたから。じゃあ、作り上げられたかと言えば、それもクエスチョンマークですけど」

 ──桜庭さんが日本の総合格闘技の礎となりましたか?
 「誰がなんと言おうと、あの頃、桜庭が最強ですよ。なぜかと言うと、グレイシーと試合をする時、ラウンド制じゃないですか。ラウンド制なのに、ホイスはもう息が上がっていた。自分らは最低でも30分1本勝負でやっていましたからね。最低でも30分もつトレーニングをしていたんです。あの頃、桜庭は自分より10キロ上、20キロ上のやつとも平気でやっていたじゃないですか。それも当時のトップの連中ばかりで、ミルコともやったでしょ。考えられないですよ」

 ──パウンド・フォー・パウンドの概念で考えると最強だったかもしれませんね。
 「はい」

 ──その桜庭さんが始めたクインテットですが、団体戦(先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の5人による勝ち抜き戦)という試合形式に関してはどう考えていますか?
 「あれは武道国家日本が発明した、スポーツ武術を体育にするための競技方法なんですよね。強いやつが何人でも勝ち抜けばいいという面白さがあります。昔から柔道、剣道、空手で猛者と言われた人たちは『◯◯大会で◯人抜きした』という伝説を残しています。桜庭はそこにアレンジを加えて、メンバーの総体重を決めて極端な体重差が出ないようにした。こうやって世界に出したのは桜庭の功績ですね」

 ──9月10日の横浜アリーナ大会の試合を間近でご覧になっていかがでしたか?
 「細かい技が凄く多くなりましたね。でも、まだまだ技術的に発展の余地があると思います。それは何かと言うと、首を絞める技術はあっても首を極める技術がない。首を極める技術がどこにあるかと言えば、レスリングにあるんです。キャッチ・アズ・キャッチ・キャン。そこからヒントを得て技術を発展させるやつが出てきたら変わるだろうなと思います」

 ──前田さんは会場でのあいさつで、サンボの選手を連れて来たいという話をしていましたが、サンボの選手が参戦したら変わりますか?
 「変わります。サンボは投げ技からの速攻で極める技術がいっぱいあるんですよ。今のクインテットは柔術の世界上位のやつもいっぱい出ているんですけど、組み合ってパタンと2人がグラウンドの状態になってガードポジションから入る感じじゃないですか。リングスの時、サンボのコピロフが柔術のカステロ・ブランコを秒殺した試合がありました。でも、サンボにも弱点があって、首の絞めがなかったんです。サンボと柔術が融合すると面白いと思います」

 ──横浜アリーナ大会で印象に残った選手はいますか?
 「決勝で2人抜きしたクレイグ・ジョーンズですね。技術が高かったです。彼がいちばん体重の使い方がうまかった。手足が長いと本当はグラウンドでは不利なんですよ。それを物ともしないバランスがあった。そのバランスを支えているものは何かと言えば、体重の使い方なんです。手と足で押さえるんじゃなく体重でバラランスを取って押さえるんです」

 ──あの大会を見ていて、前田さんが若い頃の新日本プロレスの道場ではこんなことが連日行われていたんだろうな…と想像しました。
 「いつも試合前にやっていましたよ。6時30分に第一試合開始だったら、6時29分までやってました。自分らの頃は、先輩たちの実験台ですよ。クラッチの仕方すら教えてもらったことはないです。やられて覚えていくんです」

 ──レベルとしては当時の新日の道場より今のクインテットの方が高いですか?
 「体重の使い方と首から動かす技術は自分らのキャッチ・アズ・キャッチ・キャンの方が高いですね。柔術にはその技術がないんですよ」

 ──例えば、もしも全盛期のカール・ゴッチがクインテットに出場すれば勝てますか?
 「カール・ゴッチとかビル・ロビンソンならばね。レベルが高いというより、柔術の連中が知らない体系を持っていますから。昔、藤原さんが自分で思いついた技術をゴッチさんに伝えたらゴッチさんに『それは自慢することじゃない。パンクラチオンが始まってから現代まで何年たっていると思う?その間に競技者は何人いたと思う?その人たち全員がそれに気づかなかったと思うか?おまえはたまたま掘り出しただけだ』と言われた。それはそうですよね」

 ──例えば、UWFの頃の前田さんたちがチームとしてクインテットに出場したら優勝できるでしょうか?
 「その前に研究する時間があるかどうかですね。今は夢のような時代で、どんな技術でもYouTubeを見れば検索できるんですよ。やり方まで教えてくれている。自分らの頃はあっても分解写真でしたからね。どこかの道場で教えてもらおうと思って行っても、教えてくれなくて、スパーリングをやろうと言われてガチガチにやられるだけです」

 ──クインテットにプロレスラーも出れば面白いと思うのですが…。
 「今のプロレスラーは全くダメですよ。今のプロレスラーは素人同然です」

 ──そうなるとやはりサンボの選手しかない?
 「サンボですね」

 ──最近、UFCの試合を見てもあまり満足感を得られないのですが、なぜでしょう?
 「パウンド・アウトがあるからですよ。寝技の技術がなくても、体重を使って押さえる技術があれば、相手がフラッシュダウンして半分戦闘不能状態になると勝てるんです。そこには、はっきり言って技術なんていらない。本当はフラッシュダウンしたらカウントを取るべきなんです。UFCはそのままやらせるでしょ。リングスをやっていた頃にUFCが出て来て、パウンド攻撃をやるようになった。当時はあんなのは認められないと思ったんですよ。馬乗りになって頭部を乱打するなんて、スポーツに見えないですから。技術も何もない。そこがいちばんの問題ですよね」

 ──UFCは当初、よりケンカに近いということでもてはやされたと思いますが、ケンカを見ても面白くないということですね。
 「ケンカって言うんですけど、はっきり言ってケンカの90%は口での罵り合いでびびった方が負けじゃないですか。びびらされて1発ちょんと当てられて、それでノックダウンするわけじゃなく、自分から引いて終わる。100組のケンカのうち、組んずほぐれつで戦うなんで1組か2組ですよ。そうなる前に周りも止めるし、警官も来ますからね。ケンカが強いのは、要領がいいやつ、頭がいいやつ、場を読む力があるやつですよ」

 ──クインテットはパウンド・アウトがないから面白い。
 「そうです。だから、リングスもパウンドなしのKOKルールでやりました。技術でしか勝てないようにしたんです。パウンドがなかったら体重差があっても大丈夫なんです。桜庭もパウンドがなかったらもっと長くトップにいられたと思います。桜庭がヒカルド・アローナとやって四つんばいになった時、後頭部を殴られてましたけど、あんなのスポーツに見えないじゃないですか。子供に見せられます?あんなのを見せたら子供がマネをしますよ。自分たちが小さい時、ケンカして馬乗りになって殴ったら、大人から、そんなことをしちゃダメだと言われたじゃないですか。それは日本だけじゃなく、どこの国に行っても同じですよ」

 ──クインテットの課題は何ですか?
 「いろんな流れの中での極め技に名前のないものがいっぱいあるんですよ。だから、それを一個一個掘り出して名前をつけていくこと。細かい詰め将棋のようなところがあるので、その動きをひとつひとつ解説していくことですね。この前の大会が終わった後、桜庭に電話して『自分で解説したらどうか』と言いました。なぜその技が決まったのかということが今は解説できていないんです。あとは世界中からいろんな選手を発掘することですね」

 ──クインテットの今後に期待しています。
 「ありがとうございます」

 ◇前田 日明(まえだ・あきら)1959年1月24日生まれ、大阪市出身の64歳。新日本プロレス、UWFを経て、1991年にリングスを設立。99年、「霊長類最強」と言われたレスリングのカレリンとの試合で現役引退。現在、YouTubeチャンネル、メールマガジン(登録のURLは「前田日明 メルマガ」で検索可能)で近況や自らの思いを発信中。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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