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激安車20台以上を乗り継いだドラゴン山崎流中古車チェック術は前オーナーのプロファイリングにあり!【フィアット500PINK!オーナーレポート vol.2】

2024年05月08日 08:00

激安車20台以上を乗り継いだドラゴン山崎流中古車チェック術は前オーナーのプロファイリングにあり!【フィアット500PINK!オーナーレポート vol.2】
エアコンの壊れたジャガーで1100kmを走破し中古のフィアット500を買いに大分県由布院へ 昨年の7月12日、筆者は大分県由布院にいた。7月も中旬に入ったばかりだというのに火の国・九州はかなりの暑さだ。なぜこの地にいるか […]

エアコンの壊れたジャガーで1100kmを走破し
中古のフィアット500を買いに大分県由布院へ

昨年の7月12日、筆者は大分県由布院にいた。7月も中旬に入ったばかりだというのに火の国・九州はかなりの暑さだ。なぜこの地にいるかといえば、同地の中古車店「プランニングおがわ」に次の愛車を買いに来たからだった。
前回の記事でも書いた通り、4年間連れ添った2004年型ジャガーSタイプのエアコンが不調をきたした。当初は修理して乗り続けることも考えたのだが、修理に結構な費用が掛かりそうだったことに加えて、このところの燃料価格高騰もあり、もう少し小さいクルマに買い替えることにしたのだ。

2019年にコミコミ45万円で購入した2004年型ジャガーSタイプ。リンカーンLSベースではあるが、シリーズ2以降は大幅に改良され、ジャガーネスを感じられる仕上がりとなった。故障少なく、信頼性が高く、走りや乗り心地も素晴らしかった。気に入ってはいたのだが、昨今の燃料価格高騰とエアコンの故障でフィアット500に買い替えることにした。

たまたま中古車サイトを物色していたところ、この店で予算内で買えるフィアット500、それも2009年に世界限定600台、日本限定50台で限定販売された「フィアット500 PINK!」が販売されているのを見つけたのだ。じつはその愛くるしいルックスが新車時から気になってはいたのだが、当時も今も素寒貧な筆者が新車の輸入車を卸せるはずもなく、手頃な価格で中古車が出回るのを待つことにした。

フィアット500 PINK!
フィアット500 PINK!(2009年型/2010年登録)
■Specifications
全長×全幅×全高(mm):3545×1625×1515
ホイールベース(mm):2300
車両重量:1020kg
エンジン:1240cc直列4気筒SOHC8バルブ
最後出力:69ps/5500rpm
最大トルク:10.4kgm/3000rpm
燃料供給装置:マルチポイント電子制御燃料噴射
トランスミッション:自動制御5速MT
駆動方式:FF
ステアリング形式:パワーアシスト付ラック&ピニオン
サスペンション形式(前):マクファーソン・ストラット式
サスペンション形式(後):トーションビーム式
ブレーキ形式(前):ディスク
ブレーキ形式(後):ドラム(リーディング・トレーリング)
タイヤサイズ(前・後):185/55R15
新車価格(税抜):238万円

だが、相手は超レアな限定車。タマが少ないこともあって相場は高止まりし、ときどき出る売り物は、5年経とうが、10年経とうが、一向に安くなる気配がなく、いつしか存在そのものを忘却の彼方に追いやってしまったのである。

フィアット500 PINK!

ところが、だ。ジャガーの乗り替えを考えていたときに、ふと存在を忘れていたピンクのフィアットのことを思い出し、何の気なしに中古車サイトを検索してみると……あった! しかも、車両本体35万円。コミコミ50万円という破格の安さだ。走行距離は10万9500kmとそこそこ走っており、店が遠方にあるのはちと気にはなったが、写真で見る限り状態は良さそうだ。

フィアット500 PINK!

中古のフィアット500で鬼門となる自動制御MTのデュアロジックだが、この距離までノーメンテで何事もなく乗れるとも思えず、ストップ&ゴーの多い都市部と違って渋滞の少ない地方ならミッションの痛みも少ないだろうとの判断から、多少のギャンブルは覚悟の上で、実車を確認することなく不見転で購入を決めてしまった。

三代目フィアット500はヌォーヴァ500(二代目)のリバイバルデザインで2007年3月に欧州で発表された(日本での発売は2008年3月)。開発に当たってはフォードと提携し、2代目フォードとは姉妹車の関係にある。プラットフォームはフィアット・パンダやランチア(クライスラー)イプシロンと共有する。愛くるしいスタイリングはロベルト・ジョリートのコンセプトカーをベースに、フラヴィオ・マンゾーニの指揮の元、フランク・スティーブンソンが手掛けた。

ローンの審査も無事通り、納車前整備も恙無く終わったというので、現車確認をして重大な瑕疵がなければ購入するという約束のもと、下取り車のジャガーに乗って千葉から遠路はるばる1100kmの道のりを超えて由布院までやってきたというわけだ。店とのやりとりはメールと電話で済ませたが、その対応はすこぶる良く、担当してくれた社長の人柄の良さも電話口の声や文面から伝わってきた。

売り手としてもこのクルマには自信があったようで1ヶ月・1000kmの保証をつけてくれたし(結局帰路で保証距離を使い切ってしまうのだが)、納車前には専門店に整備を出した上で、点検・整備とデュアロジックオイルの交換をしてくれた。整備の様子は写真を添付してくれたし、車両の説明も懇切丁寧。そんなことから良心的な店であることはわかった。

「プランニングおがわ」で現車と初対面
まずはエクステリアのチェックから

プランニングおがわ
もともと福岡市内で不動産業を営んでいたが、お子さんの学校の都合で大分・由布院に拠点を移したそうだ(現在も不動産事業は福岡・大分で展開している)。中古車部門は地元密着型で手頃な価格帯の軽自動車や小型車を中心に取り扱うが、その一方で「クルマ好きが気軽にため占めるように」とリーズナブルな価格帯の輸入車も取り揃えている。欧州車に関しては九州の各専門店とのパイプがあるので、車検や整備、修理、板金塗装などの購入後のアフターケアも万全だ。最近ではカーコーティングにも力を注いでいるという。良質な中古車の購入を考えている人や、個性的で面白い輸入車を求めている人は1度相談してみると良いだろう。
住所:大分県別府市大字南立石字板地1790 TEL:0977‐85‐8968 定休日:年中無休 営業時間:10:00~20:00

出立してから14時間ほど掛かって到着したプランニングおがわは、よくある地方の中古車店という感じで、ストックヤードと展示場を兼ねた店舗敷地にプレハブの事務所と整備場が1楝づつ建つという店構えだった。展示車両を見ると地元密着型の中古車店らしく比較的安価な軽自動車や国産コンパクトカーを中心とした商いをしていることがわかる。

プランニングおがわの展示場には上質で安価な軽自動車やコンパクトカーが並ぶ。車両価格が抑えられているだけでなく、諸費用も明朗。購入後も末永く付き合える良心的な「街の中古車屋さん」だ。

だが、社長の趣味もあるのだろう。10~15年落ちのアルファロメオやプジョー、VW、ボルボ、メルセデスなどのちょっと古い欧州車も商材として並んでいた。社長に話を伺うと、自身がエンスージアストということもあり、クルマ好きが気軽に買えて楽しめる安価な欧州車を意識して仕入れているという。お目当てのローザ・ローザでペイントされた車両以外にも数台のフィアット500が並んでおり、社長の「ウチはフィアット500の販売実績が結構多いんですよ」との言葉を裏付けていた。

プランニングおがわは輸入中古車にも強い。安価なクルマでも整備に手を抜かないのはユーザーとして安心できる。
筆者が購入したフィアット500PINK!もデュアロジックの点検・オイル交換、タイミングベルト、ウォーターポンプ、テンショナー、ファンベルトの交換など入念な納車前整備が行われた。

社長への挨拶もそこそこに現車チェックに入る。が、いつもならカースロープ持参で車体下廻りも含めて念入りに確認するのだが、いかんせんこの暑さだ。おまけにエアコンの壊れたジャガーでのロングドライブを終え、ロクに寝ていないこともあって、疲れから何もかもどうでもよく思えていた。このときの筆者は「とっとと契約済まして宿で寝たい」ことしか頭になかったのだ。

カー用品店や自動車専門の工具店で購入できるカースロープ。中古車の現車確認の際に持参すると、リフトを使わなくても下回りの点検ができる。オイル漏れやブッシュやブーツ類の確認をするのに捗るぞ。ただし、今回は本文中にもあるように使用せず。

次はクルマの周囲をぐるぐると何周も回って外装を確認する。それが終わったらドアやトランク、ボンネットなど開くところは全部開けて、開閉操作の具合や外版をチェックする。その際にキズや凹みはもちろんのこと、塗装のコンディションもよく見ておく。
このクルマで少々気になったのは、フロントバンパーの色がわずかに合っていないことと、運転席開口部のサイドシル周辺にいくつか凹みがあることだった。

写真ではわかりにくいがフロントバンパーの色合いが微妙に違う。おそらくバンパーをぶつけるか擦るかして修理したのだろう。

とは言え、疲れた身体でも最低限のチェックだけはする。中古車を見る最初のポイントはクルマの姿勢だ。7~8mくらい離れたところからクルマをしばらく全体を見てピシッとした印象を受けるようならひとまずは合格。このときにクルマの姿勢が前下がりだったり、後ろ下がりだったり、バンパーやボンネットの取り付けに違和感を覚える中古車というのがじつは結構あるのだ。

ヘッドランプは年式相応に劣化が進んでいた。納車前にプランニングおがわは磨きをかけたというが、それも限界があったようだ。いずれ新品に交換することを考えている。
フロントとリアのエンブレムも劣化が進んでいた。こちらもそろそろ新品に交換したいところ。

前者の色の違いは歴代オーナーの誰かがバンパーをぶつけるか擦ったかして補修を受けているのだろう。ただし、エンジンルームのラジエターコアサポートのあたりに修復跡がなかったことから大きな事故はやっていない(=事故車ではない)と判断した。

運転席側のサイドシルにはベルトバックルを挟んだ際についたと思しき凹みが数ヶ所あった。シートベルトの巻取りに問題はなかったので、おそらくは前オーナーはベルトストッパーを使っており、それが原因で凹みが生じたのだろう。

後者の凹みはベルトバックルを挟んだままドアを締めたことが何度かあったことを物語っていた。ベルトの巻取り自体に異常がなかったことから、おそらくはベルトストッパーでも使ってベルトを伸ばした状態で固定していたのだろう。ベルトストッパーは、運転席シートベルト着用義務が制定される以前に免許を取得した中高年や、頻繁にクルマに乗り降りする職業ドライバーがベルト装着をめんどくさがって使用することが多いが(違法な使い方)、ベルト装着が常識化した若い世代ではあまり使われることがない用品だ。ボディカラーや後述する理由から考えて、前オーナーが女性であることは間違いなさそうなので、ひょっとするとサイドシルの凹みは妊婦が身体への負担を感じてベルトストッパーを使った際にできたものなのかもしれない。

ホイール4本ともは小キズはあれど目立つガリキズはなし。コンディションはまずまずだ。

なお、ホイールは4本ともきれいで派手なガリキズなどはなかったし、ボディに目立つ傷や凹みもなかった。ボディ前後を斜めから見て板金修理の痕跡もないようであるし、距離が距離だけにダンパーは抜け気味だが、エンジンやミッションなどのメカを軽くチェックしてみても異常はなく、それなりに大事に乗られてきた個体に思えた。

名探偵になりきり気分でクルマに残された痕跡からプロファイリング
すると前オーナーの性別、年齢、生活様式、クルマの使い方などが浮かび上がる

エクステリアの確認が終わったところで今度はエンジンルームやインテリアのチェックだ。特にインテリアは補修が難しく、修理には相応の手間とコストがかかる。そのため、中古車として商品化される際もルームクリーニング以外の補修はスルーされることが多く、そんなことから前オーナーの使い方を雄弁に語るポイントでもある。それ故に車内をつぶさに観察することで、前オーナーの姿が見えてくることもあるのだ。

フィアット500 PINK!の心臓部には、1980年代にフィアットが開発した直列4気筒SOHC「FIRE(Fully Integrated Robotized Engine)」をベースに、吸気バルブをカムシャフトではなく油圧ピストンで駆動する「Multi Air(マルチエア)」を搭載。排気量は1.2Lのみとなり、1.4Lやディーゼルは設定されなかった(並列2気筒SOHCターボのTwin Airはまだ登場していない)。燃費は街乗りで13~15km/L,高速道路主体で15~20km/Lと良好。ジャガーの倍以上の燃費なのでお財布にかなり優しい。エンジンルームもチェックしてみたが、オイル漏れなどはなく、ホースなどのゴム部品などの劣化も問題がなかった。

インテリアを中心にクルマに残された痕跡からプロファイリングを行い、車種やグレード、外装色、メンテナンスノートなどと合わせて考察(最近では個人情報保護の観点から破棄されることも多い)することで、前オーナーの性別、年齢、生活様式、クルマの使い方、コンディションなどがある程度予想できるのだ。これは中古車選びをする際にクルマの良し悪しを見抜く大きな手がかりとなる。

フィラーキャップを開けてエンジン内部を覗いてみてもキレイだった。どうやら前オーナーのオイル管理は適切なものだったらしい。
納車前に補機類は交換済み。フィアット500のタイミングベルト交換時期は6年・6万kmが推奨されているので、しばらくは安心して乗れる。

以前、弟がクライスラー・イプシロンの中古車を購入する際に「一緒にクルマを見てほしい」というので現車確認を手伝ったことがある。その際にワンオーナー車だというイプシロンのインテリアをチェックすると、リアドアのトリムに擦り傷が何ヶ所かあり、助手席の座面にタバコの焦げ跡が1箇所あるのを見つけた。外装はボディに凹みや目立つキズはなかったが、ホイールは4本ともキズだらけだ。これらの痕跡から直感的に「前オーナーは女性だ」と判断した。さらに車両をチェックして、クルマに残された前オーナーの痕跡を探す。すると、それらの手掛かりから彼女の姿がおぼろげに浮かび上がってきた。

フィアット500のお約束となるフロントアッパーマウントのサビ。構造的に水が溜まりやすく、経年劣化でどうしても錆びてしまうようだ。対策としてはスズキ・スイフトのストラットロッドキャップ(部品番号:41724-63J00)がそっくりそのまま保護キャップとして流用できる。

「前オーナーは女性。年齢は30代後半~40代後半で、専業主婦か仕事をしていても在宅ワーク。生活レベルは中の上から上の下。小型犬を飼っているが、クルマにペットを乗せる頻度はあまり多くはない。住居は郊外の戸建て。配偶者は喫煙者で都心の大企業に務めるビジネスマン」とプロファイリングしてみた。すると店員は「なんでわかったんですか? このクルマは下取りで入ってきたのですが、ほぼ当たっています。もちろん個人情報に関することなので詳細はお伝えできませんが……」と目を丸くしていた。

筆者の弟が2019年頃に通勤のアシとして中古で購入した2013年型クライスラー・イプシロン・ゴールド。フィアット500の姉妹車で、欧州の大陸各国ではランチアブランドで販売されていたが、ディーラー網がない日本とイギリスではクライスラーブランドで販売されていた。なお、北米での販売はされなかった。

タネ明かしはこうだ。ドアトリムに残る複数の線傷は動物が爪で引っ掻いた際にできたもので、そのサイズから小型犬であることがすぐにわかった。だが、傷の数はけっして多くはなく、車内にペットの匂いや抜け毛がなかったことから犬を乗せた頻度はそう多くはない。せいぜい動物病院に愛犬を連れて行くときに乗せることがある程度といったところか。助手席に残るタバコの焦げ跡はパッセンジャーが喫煙者だった証でもある。ほかにタバコを吸った痕跡は見られず、前オーナー自身はタバコを嗜まないか、少なくとも車内で吸うことはないのだろう。そんな前オーナーが他者に車内での喫煙を許すとすれば、生活をともにする家族ないしは深い関係にある異性だろう。前オーナーが女性だとすれば、焦げ跡がついたシチュエーションは概ね想像がつく。おそらくはバスの営業が終わった時間に帰宅した夫(たぶん酔っていた)を駅まで迎えに行った際につけられたものだと推理する。となると、駅から自宅までは徒歩での移動が困難な距離があると考えるのが自然で、住まいは駅チカのタワーマンションなどではなく、郊外の住宅街と考えれば合点が行く。

プランニングおがわの敷地内でキーオンの状態でシフトレバーを停止状態で数度ガチャガチャと動かしてみたが、アキュームレーターの反応にも問題はなかった。また、ポンプ音も「ウィーン」と澄んだきれいな音がしており、これも問題がなかった。

さらに、イプシロンという車種にも読み解くヒントがあった。姉妹車のフィアット500なら指名買いということもありえるが、マイナー車のイプシロンを積極的に選ぼうという女性はそうはいない。とすると、夫のファーストカーはクライスラー店で買った新車のジープか300Cあたりで、高価なアメ車を買えるということで、それなりに裕福な家庭であったはずだ。そして、どちらも集合住宅の立体駐車場に停めるには大きすぎる。おそらくは複数の所有車を駐車できる一戸建てに住んでいるのだろう。また、ホイールのガリキズの多さから考えて、前オーナーはあまり運転が上手くはないハッキリしている。おそらくは大きなアメ車を運転させるのに不安を感じた夫が、アシとして奥さんにコンパクトカーを買い与えたのだろう。

フィアット500のトランク。サイズは横1230mm×奥行き540mm×高さ680 mmで容量は185L。ミニマムだが実用上は問題がない。

増車するタイミングで、折よく販売不振のイプシロンが叩き売り(導入からしばらくして全国のクライスラー店では、自社登録した未使用のイプシロンを新車の半値ほどで売り捌いていたことがある)されていることを担当営業マンから聞かされた夫は、ファーストカーで付き合いのあるディーラーだし、ESPや6エアバッグなどの安全装備も充実しているイプシロンが軽自動車並の価格で買えるのだから悪くない選択だ、と考えてこのクルマを選んだのではないか。そのように考えて行くとすべての辻褄が合う。

リアシートは分割可倒式。シートバックを倒せば、奥行きは1160mmとなり、容積は最大で550Lへと広がる。

このように前オーナーのプロファイリングができれば、そこから中古車の使用状況からクルマの良し悪しを占うことができる。プロファイリングに必要なものはクルマの知識よりも観察力とちょっとした想像力だ。正しく推理できれば中古車選びの大きな武器にもなる。

標準装備だったのか、オプションだったのかは不明だが、フィアット500PINK!にはスペアタイアが備わっていた。パンク修理キットを信用していない筆者にはありがたい。

真実はいつもひとつ! じっちゃんの名に賭けて!
このクルマの前オーナーは30代前半~40代前半の女性だっ!

閑話休題、フィアットに話を戻そう。ボディ同色のダッシュパネルが特徴のインテリアだが、13年落ち・10万9500km走行の中古車ということで、ベージュのシート生地はそれなりに汚れており、本革巻きのステアリングホイールは使用痕が残り、プラ製のドアトリムやセンターコンソールには少々キズがあるが、全体的には年式相応のコンディションと言ったところで、特段良くもなければ悪くもない。エアコンやオーディオ、ステアリングスイッチなどは正常に機能しており、故障が多い電動パワステを含めて不具合は見られなかった。

フィアット500PINK!のインテリア。ややプラスチッキーだが、ボディ同色のダッシュパネルがおしゃれだ。小キズなどが若干あるが、年式と走行距離を考えればコンディションはまずまず。タバコの焼け焦げなどはなかった。

フィアット500の内装で問題となるダッシュボードの割れだが、幸いなことに助手席エアバッグに少々膨らみは見えるものの亀裂は入っていない。外装プラやゴム部品の劣化から車庫保管というわけではなさそうだが、駐車時にフロントスクリーンにサンシェードをつけるなど、それなりに手当されていた個体かもしれない。

走行距離を感じさせる本革巻きのステアリングホイール。使用感があり、少々テカりはあるが、切れや破れ、色剥げはない。ステアリングスイッチは正常に機能している。
ダッシュボードの助手席エアバッグには膨らみがあった。フィアット500の初期型によくある症状だ。直射日光によるダッシュボードの熱収縮が原因で、助手席エアバッグの開口部が変形することで起こるトラブル。このまま放置していると亀裂が入る。対策としては写真のように停車時にタオルなどを被せるか、サンシェードやダッシュマットを使用することしかない。亀裂が入った場合はダッシュボードの交換や亀裂の補修が必要になる。

ノーマルと異なるのは、ダッシュパネル助手席側にある「500」のバッジで、数字の部分にはスワロフスキー調のクリスタルでデコレーションされていた。男でこういう飾り付けをするヤツはそうはいないので、前ユーザーは「デコ電」世代の女性と判断して間違いなさそうだ。2000年代に十代を過ごした世代だとしたら、現在彼女の年齢は30代前半~40代前半くらいか?

ダッシュパネル助手席側に備わる「500」のバッジはスワロフスキーガラスでデコられていた。これで前オーナーが女性だと確信。おそらくは2000年代の「デコ電」ブームの頃に学生時代を過ごした世代だろう。とすると、現在の年齢は30代前半~40代前半くらいか。

シートに座ってクッションの状態を確かめてみる。チンクェチェントのシートは、体重が重いドライバーが所有者となると、座面が潰れているわ、シート地が伸びるわで、結構悲惨な状態になるのだが、おそらく前オーナーの体重はさほど重くはなかったのだろう。使用頻度がもっとも高い運転席も距離の割にヘタリは少なく、前席はまずまずのコンディションだ。リアシートはどうやらほとんど使っていなかったらしい。

前オーナーの女性の背後にエンスー男性の影あり!?
走行距離の割にコンディションを保っているのは彼のアドバイスが効いていた?

あとで登録識別情報通知書を見せてもらったところ、記載のあった前所有者は福岡市内のVWやアウディなどを取り扱う輸入車ディーラーだった。ということは、たぶん前オーナーはこのフィアットを下取りに出して再び輸入車に乗り換えたのではないか? 登録識別情報通知書と予備検査証を見ると2019年の車検時の走行距離は4万600km。その2年後となる2021年の車検時が7万5600km、そして今回予備検時の走行距離は10万9500kmと記載されていた。

市役所で仮ナンバーを借り出し、中古車店から少し走ると九州らしい雄大な景色が広がっていた。予備検渡しでの購入なので、このまま自宅のある千葉まで帰る。のちに仮ナンバーは郵送で返却した。

新車登録から9年目までの走行距離が4511km/年だったのに対し、直近の4年間では1万7255km/年と大きく延びている。乗り方が変わったということは、おそらくは2019年にオーナーチェンジ……つまりは中古車を購入したということだ。だとすれば、車検証の履歴から考えてこのクルマは2オーナー車、距離をほとんど乗らない所有者が2代続いたとしても3オーナー車と考えて良さそうだ。

前席シートは汚れが多少目立つがコンディションは悪くはない。前オーナーは体重の軽い女性だったのだろう。運転席シートのサイドサポートなどにも痛みがなく、クッションのヘタリもほとんど感じない。

2019年前の時点で、4万600kmという走行距離のフィアット500 PINK!の中古車相場は、車両本体価格でだいたい138~168万円だったはずだ。当時で10年落ちのコンパクトカーということを考えれば、いかに希少な限定車であれ割高感は残る。前オーナーは愛くるしいピンクのフィアット500と中古車店で出会い、一目惚れしたのかもしれないが、ある程度のイタリア車に関するホースセンスと生活にゆとりがなければ、9年落ちの輸入コンパクトカーにこの金額を支払う気にはなれなかっただろう(同程度の標準仕様ならずっと安く買えた)。とすると、裕福な家庭であるだけでなく、家族か友人・知人に低年式のフィアットを購入してもサポートしてくれる輸入車……それもイタリア車に精通した人間がいた可能性が高い。

リアシートの使用感は少ないが、何かをこぼしたのかシート中央部には目立つ汚れがある。シートを外して丸洗いするか、シートカバーを使うか、張り替えるか……。いずれは何かしらの方法で手当したい。

それというのも、ノーメンテのまま短期間ででこれだけの距離を走れるほどイタリア車は甘くはないからだ。前オーナーの女性にクルマの知識がどの程度あったかは定かではないが、ディーラーかそれに準じた整備工場で然るべきメンテナンスを受け、コンディションが悪化する前に早め早めに手を打たなければ良い状態で維持することは難しく、彼女の近しい人間に予防整備をアドバイスする自動車趣味人でもいたのだろう。

ドアトリムも前オーナーの扱い方が出るところ。日常のアシに使っていたらしく、小キズが少々目立つ。

ひょっとすると、クルマを買い替えた理由も単に飽きたとか、古くなったからという理由ではなかったのかもしれない。そもそも前オーナーは4年前の購入時点で10年落ちの輸入コンパクトカーにそれなりの金額を支払い、アシとして惜しげなく活用するようなパーソナリティの持ち主だ。この特別なフィアット500を手に入れたときは乗り潰すつもりだったのかもしれず、リセールなど気にすることなく距離を伸ばしたのだろう。

しかし、最近になって何かしらの生活の変化があり、購入から4年で降りることになったのかもしれない。おそらく、それは女性ならではの事情。結婚や出産という問題が絡んでいると筆者は推理する。前述の通り、このクルマの運転席側のサイドシル周辺にはベルトストッパーによるものと思しき凹みがあったが、リアシート座面にはベビーシートを取り付けた痕跡がなかった。そんなことからも前オーナーがフィアットを手放した経緯がなんとなく見えてくるのだ。

じつに初歩的な推理だよ、ワトソンくん
筆者のプロファイリングによる前オーナー像がこれだ!

自宅に戻ってから、しばらくは溜まった仕事を片付けるのに忙殺され、結局ナンバーを取得したのは8月に入ってからとなった。これで晴れてピンクのフィアットが自分の愛車となったわけだ。

以上のことから多少の妄想を入れつつも筆者なりにプロファイリングをしてみよう。このクルマの前オーナーはもちろん女性。体形は小柄~中肉中背で、少なくとも太ってはいない。購入時の年齢は20代後半~30代中頃くらいで、年間の走行距離から考えて、通勤やプライベートだけでなく、仕事でもフィアットを使っていた可能性がある。ピンクのボディカラーが許されるということは、横文字系の職種かそれに準ずる自由な雰囲気の会社に勤めている、あるいは才能を生かした自由業なのかもしれない。生活は比較的裕福で実家暮らしをしており、家族にイタリア車のベテランユーザーがいる。フィアット500の所有期間中に結婚し、それを機に親元を離れて夫婦で居を移した。そして、妊娠・出産が転機となり、3ドアではやはり不便ということでお気に入りのフィアットを手放し、VWポロかゴルフ、アウディA3あたりの新車に買い替えた……と、このように推理してみたがいかがだろうか?

フィアット500PINK!の特徴はローザ・ローザの外装色だけでなく、ガラスサンルーフを標準装備しているところ。
標準グレードはガラスルーフとなり、ルーフの開閉はできない。チルトとオープンの2モードから選択をできる。

まあ、真実のほどは定かではないが、いずれにしても前オーナー像は固そうではあるし、コンディションも距離の割には悪くない、というかむしろ良好だ。鬼門のデュアロジックもエンジンルームを覗くと専用オイルを交換しやすいように遮熱板が少し折り曲げてあるのが確認できた。ということは、定期的にオイル交換が行われていた車両と考えて良く、しっかりとしたメンテを受けてきた個体であるようだ。

天井のスイッチを操作することでサンルーフの開閉操作をする。
ルーフトリムに格納されたサンシェードは手動で開閉が可能。
前オーナーは喫煙者だったのだろう。サンシェードは茶色く汚れていた。

プランニングおがわの敷地内で現車チェックを終えた筆者は、クルマで10分ほどの距離にある由布院の市役所で仮ナンバーを取得。フィアット500で店の周りをひと回り走ってみたところ、メカは調子良く、店に戻ってくる頃にはをすっかり気に入った。ということで当初の予定通り契約書に判子を押し、晴れてピンク色のチンクェチェントは筆者のものとなった。予備検付きでの購入としたので、あとは自宅のある千葉まで再び1100kmを自走で帰り、陸運局に行って名義変更とナンバー取得を受けるだけとなった。購入してから最初のドライブが長距離というのが若干気にはなったが、生来からの楽天的な性格ということもあり、大きな不安は感じることなく一泊した後に帰路についた。


「激安車20台以上を乗り継いだドラゴン山崎流中古車チェック術は前オーナーのプロファイリングにあり!【フィアット500PINK!オーナーレポート vol.2】」の1枚めの画像

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