柄本佑、父も出演の鬼才監督との再タッグに感慨「恵まれた環境にいる」
2015年09月21日 13:00
芸能
「正直“何なんだ、こいつ”と思われて呼ばれなかったら悲しいと思ったけれど、ありがたいことに声をかけていただけた。キャラクターも、普段の自分の事を見てイメージしてもらえたようなところもあって嬉しかった」。憧れの鬼才からの当て書きに近い役を任されたことは、俳優としての自信にもつながる。前回と打って変わって、現場での注文はほとんどなかった。
くしくも同監督の長編映画デビュー作「天使のはらわた 赤い眩暈」(88年)には、父・柄本明(66)が出演。親が名優であればあるほど、距離をとりたくなるものだが、父親として、俳優として尊敬の念を抱く息子は「恵まれた環境にいる」と口にする。「石井監督の作品に出るよ、とは親父に言いました。でもあんまり感慨とかがないみたいで“あ、ホント。よろしくお伝えください”と敬語で返された。俺の仕事に興味がないみたい」。苦笑いを浮かべるが、興味がないはずがない。息子の仕事について、“ダメ出し”のメールが送られてくることは決して珍しくないという。
芝居に対して真剣に向き合う父親の姿勢を目の当たりにするたびに、身が引き締まる思いがする。「いまだに親父が、たった一言のセリフを壁に貼り付けて、夜の10時から朝方の5時くらいまで“どうしても言えない”と格闘している姿を見ます。そんな人から厳しいことを言われるのはありがたいし、恵まれた環境だと心底思う」。俳優として、これほどのお手本は他にいないだろう。
石井監督作品には欠かせない俳優、根津甚八(67)との共演も忘れられない。体調を崩し、表舞台から遠ざかっていた根津は、盟友の要望に応える形で、映画「るにん」以来約11年ぶりにスクリーン復帰を果たした。柄本は「ほかの共演者の方々以上に、根津さんと一緒にいられる時間が長かったのが自慢」と目を輝かせ「初日シーンは、スタッフの“根津さん入ります!”という声もなく、現場全体がピリッとした静寂に包まれていました。ただその中で一番緊張されていたのが、実は根津さんだと気づいたときは、本当に感動しました」。
本番撮影直前、ベッドに横たわる根津の手と顔が緊張でブルブルと震える姿を目撃。クライマックス・シーンの撮影では、役者としての執念に目頭が熱くなった。「カメラが回っているにも関わらず、石井監督が“根津さん、芝居して!”と大声で言う。根津さんは体の自由がきかない中で、それに必死で応えようとする。根津さんの役者魂に震えて、見ているこっちが泣きました」。
03年の映画「美しい夏キリシマ」から俳優生活をスタートさせてから12年。演技派として映画、テレビドラマ、舞台にと活躍の範囲は広く、“二世”として語られることはほとんどなくなった。だが、まだ始まったばかり、ともいえる。先人の域に達するべく、柄本の挑戦は続く。(石井 隼人)