栗原英雄、役者業の面白さ実感 座長・山本耕史とセリフの行間でも“ひと工夫”
2017年12月02日 10:00
芸能
――栗原さんが演じるラジオ局プロデューサーのシモンズは、どういう人物だと捉えていますか?
「僕はプロデューサーという“大人な役”なので、激しく歌ったり踊ったりする場面はありませんが、物語の中で大事な場面、要所を抑えるような役だと思います。この作品の面白い部分ですが、プロデューサーのシモンズ自身も舞台の幕が開いたときから、終わるまでの間に成長するのです。メンフィスという田舎町のラジオ局で、プロデューサーといってもお金をあまり持っていない人物が、主人公ヒューイという才能に出会って、彼に賭けてみようと思うことでステップアップしていきます。劇中の中で成長する人物を演じるのは、役者として面白いですね」
――役者として演じるのが面白いという言葉が印象的です。
「芝居は相手役があってのもの。舞台上で相手の反応によってこちらの反応、演技も変化するものだと思います。相手の演技に反応して成長する人物は面白い。山本耕史くん演じるヒューイという人物はエネルギッシュで自由人なので、彼に翻弄されながら音楽の素晴らしさや、人種問題について閉鎖的な考えを持っていたシモンズが、少しずつ気持ちを開いていく。完璧にオープンにはなりませんが、いままで口をきかなかった黒人の人たちともフランクに喋るようになっていくような変化が起きます」
――作品の印象、魅力について教えてください。
「凄くパワフルな作品です。この物語の面白いところは、主人公と出会って変わらない人間がいないということ。私たちの日常もそうですが、人間は皆、変化することに臆病だと思う。だからこそ、このミュージカルをやる意味があります。変わっていくことに喜びもあれば苦しみもあるけれど、それでも変化する方を選ぶ。この舞台では反逆児のようなヒューイがいますが、彼のような人物が周囲にいなくても、ほんの少しでも踏み出せば変われるんだよというメッセージが込められていると思います。例えば、メンフィスに一人の白人がいて、黒人と握手はできないが彼らの音楽を聞くようになったとしたら、これは大きな一歩ですよね。否定していたものを受け入れる訳ですから。また、この作品はハッピーエンドで終わるのか分からないストーリーがいい。考え方によってはハッピーエンドかもしれませんし、バッドエンドかもしれない。でも、人生って続いていきますよね。主人公もその周囲の人間も得たものと失ったものがある。それでも人生は続いていくものだと教えてくれる作品です」
――座長としての山本耕史さんの印象を教えてください。
「背中を見せる座長だと思います。“ここの場面はこうだ!”とか言葉の力で引っ張っていくような感じではない。“こうやってみようか”と、まずは提案するタイプです。耕史くんが主人公のキャラクターを見せていくと、周りにいる役者が触発される、そういう相乗効果がありますね。周りを触発する座長だと思います。役柄と通じる部分がありますね。彼がこの役をやることが正解なのでしょうね」
――今作で山本さんは演出も手掛けていますが、山本さんならではの演出や魅力についてお聞かせください。
「台本にあるセリフの行間を大切にしています。言葉の間にある、人と人の遣り取りの部分に“もう少しユーモアや細かい演技が必要なんじゃないか”と。例えば、台本に会話をする2人のセリフが書いてあるとします。その2人の間柄もしっかり考える。仲が良い2人なのか、良くない2人なのか。関係が良くない2人なら、行間にはギクシャクしている部分を出そうと演出の工夫をする。耕史くんは“ちょっとこの場面はこうしませんか”と日々考えていますね」
――シモンズを演じる上で難しい部分はありますか?
「どの役も難しいのですが“この役は難しい、この役は優しい”と意識せず、ナチュラルにフラットな感じで役と向かい合うようにしています。難しいのは当然だし、いまはこういう段階で、この部分が足りないんだな、だからこの部分を足していこうと考えます。ですので、ここ数年は失敗したなと思ってもクヨクヨしないです。稽古は失敗するのは当たり前だし、チャレンジして違ったなと感じたら直せばよいので。稽古はそのためにするものですからね。あまり気負いとかはないです。20代はエネルギーだけでやってきて、30代は少し頭でっかちになって、今は“我”や“考え”を捨てて演じています。削って削って、一人の人間が生きていればいい。“私=栗原英雄”なんて見えなくていいのです。シモンズという役がしっかりと見えていればいい。それが役者だと僕は思っています」
――舞台を楽しみにしている方やファンにメッセージをお願いします。
「人生は人それぞれ。いろいろな壁がありますが、その壁にぶち当たったときに、前に進む勇気をもらえる作品だと思います。同じメンフィスに住む人になった気持ちで見ていただきたいですね。上演が終わったときに“自分だったらどうするだろう?”と思っていただけたら最高です」