「なつぞら」“天陽くんラスト”秘話 自画像に込めた意味 なつとの別れも吉沢亮が敢えて抑制「神か仏」
2019年09月04日 08:15
芸能
天陽というキャラクターについて、磯CPは「なつの人生のターニングポイントに必ず影響を与える人物というふうに、当初から脚本の大森さんと話をしていました。天陽の最期は、なつの大きな決心につながるシチュエーションにしたい。その大きな決心というのは、なつが本当にやりたいことは何なのか、見つめ直していくということです」と解説。なつが開拓者精神を学んだ泰樹とともに、天陽は人生の指針となった。
天陽のモチーフとなったのは、十勝に生きた画家・神田日勝(1937~1970)。鹿追町には神田日勝記念美術館があり、命日の8月25日は「馬耕忌」と呼ばれ、例年イベントが行われている。今年は吉沢がトークショーを開いた。
脚本の大森氏は「天陽くんはモチーフを一番意識したキャラクター。神田日勝の魂が十勝に今でも残っているというのが一番大事な部分なので、それは天陽くんでも同じように描きたかったんです。天陽くんはいなくなってしまいましたが、そこに残っている天陽くんの魂を感じながら残された人間が生きていくというのが正しい描き方なんじゃないかと思いました」。磯CPも「大森さんが山田天陽というキャラクターを造形した時から、彼の人生の最期も既にこうなると決まっていました。大森さんは神田日勝さんの生きざまが丸ごと好きなんだと思います」と補足した。
天陽が亡くなった後、なつが足跡をたどる展開は大森氏のアイデア。この日放送された、なつが天陽の自画像と交わす“心の対話”は今作最大のクライマックスの1つとなった。
磯CPは「吉沢さんは淡々と演じたいとおっしゃていました。なつにとっては天陽との最後の別れで、広瀬さんは感極まった芝居をするわけですが、吉沢さんは敢えて感情的に受けず、天陽が最後までなつの人生を導く役割を担っていることに徹しました。なつが天陽の遺影に手を合わせた次に撮影したシーンが、この自画像との対話でした。亡くなったはずの人が目の前に現れる、なつにとっては衝撃的で心揺さぶられる再会。広瀬さんは込み上げる感情を抑えられず、自然と涙がボロボロあふれる芝居になりましたが、吉沢さんは敢えて広瀬さんとは違う、抑制した芝居に挑んだ。だからこそ、魅力的で見応えのあるシーンになったと思います」と撮影を振り返った。
「不思議なシーン」とも評し「天陽はあたかも神や仏のような感じで、淡々と自分のメッセージを伝える。もちろん別れの場面なんですが、センチメンタルで胸が痛むというよりも、見終わった後、逆に天陽から元気をもらえるようなシーンだと思いました。そういう意味で、不思議。なつはこの後も生きていかなければならないわけで、天陽は自分がいなくなった後も、なつの背中を押す存在。吉沢さんが、そういう勇気を与えてくれるような演技をしたのが興味深く感じました」
そして「大森さんの脚本を意図を汲み取って、演じ切った広瀬さんと吉沢さんは改めて凄いと思いました。お互いの芝居に引きずられることもなく、自分の気持ちを丁寧に表現してくれました。だからこそ、単なる悲しみというよりも、大きな愛に包まれる深みのあるシーンになったと思います」と2人を絶賛した。
天陽の自画像は実は、キャンバスに描いたなつの絵を上から塗りつぶしたもの。その様子は、第60話(6月8日)で放送されていた。
上京したなつから「今は毎日、仕上げの仕事、彩色に打ち込んでいます。それも、まだまだ未熟です。当分、北海道には帰れません。帰りません。じいちゃんや天陽君、家族や私を応援して見送ってくれたみんなに、送り出してよかったと胸を張って今の自分を感じてもらえるまでは。私はここでおいしい牛乳を搾れるように、自分を育てていきたいと思っています。十勝に帰りたい。みんなに会いたい。だけど今は、振り返りません。私はここで生きていきます」という手紙。天陽は、なつの絵を赤の絵の具をつけたハケで塗りつぶしていき、1人、涙。なつへの想いを断ち切った。
磯CPは「天陽は、なつの絵を塗りつぶした上に自画像を描いたという裏設定があります。つまり、あの絵自体が既に天陽となつが一体化しているものなんですよね。だから、大森さんの意図としては、なつは天陽の自画像に語り掛けているのと同時に、自分自身と対話しているというシーンになっています」と天陽の自画像に込められた意味を明かした。
なつは天陽のアドバイスと“自問自答”の末に、自分の進む道を決める。