糸谷八段が解説 藤井2冠は冷静に手堅く…“読む力”が生んだ「飛車切り→と金の拠点」
2020年08月21日 05:30
芸能
印象的だったのが、切った藤井飛車を取った木村金をさらに歩で叩いてつり上げ、空いた木村陣に歩を打って桂取り、さらにと金をつくった一連の手順です。
まさに冷静。飛車切りの派手さに目が行きがちですが、敵陣につくったと金の拠点は大きかった。そして、手堅くまとめきったというのが率直な印象です。
飛車切りは見えます。やるかどうかは別ですが、考えないことはありません。ただ、その後、拠点をつくれればいけると判断できるかどうか、踏み込めるかどうか、そこが大きい。
飛車切りに印象的な手が多い藤井将棋です。一昨年の竜王戦5組ランキング戦決勝。石田直裕五段との終盤では先手石田五段の[先]7七歩に対して[後]同飛成と切り込んで勝利し、新戦法や新手を創出した棋士に贈られる升田幸三賞に輝いた。
出るか退くか、迷いそうな局面では踏み込む。そのイメージが強いのは他の棋士が読み切れない領域まで読み切る、読みの量に支えられていると感じます。限られた時間内で深く“掘る”方法は、多く読むか、不要な選択肢を手早く切り捨てるか。多く読むのは若い棋士がたけ、切る能力は経験を積むにつれて上達する。藤井棋聖の量を読む能力は、小学6年生から大人に交じって5連覇した詰将棋解答選手権で実証されています。
2次予選から出場した王将戦では、私自身、リーグ入りを懸けた対局が25日にあります。リーグでは藤井棋聖との対局もある。3連敗中でもありますし、強い方と指せるのを楽しみに頑張りたいと思います。
◆糸谷 哲郎(いとだに・てつろう)1988年(昭63)10月5日生まれ、広島県出身の31歳。森信雄七段門下で2006年四段昇段。タイトル戦登場は3回で、14年12月には竜王位を獲得した。昨年6月からは棋士会副会長を務めている。