落語家・柳亭小痴楽 「名人候補」の声に「僕の場合は『迷人』」

2021年02月05日 11:30

芸能

落語家・柳亭小痴楽 「名人候補」の声に「僕の場合は『迷人』」
浅草演芸ホールの一室でポーズをとる柳亭小痴楽 Photo By スポニチ
 【牧 元一の孤人焦点】柳亭小痴楽の落語を浅草演芸ホールで聞いた。演目は「真田小僧」。小ざかしい子供が父親から巧妙に小遣いを引き出す噺(はなし)だ。
 子が父に、母の不穏な行動をほのめかし、それを話す代わりに金銭を要求。父が後払いにしようとすると「寄席に行ったことある?どこのお客さんが後でお金を置いていくの。先にお金をもらうから芸人さんはいつもやりたい放題」と言って、客席の笑いを取る。

 テンポが良い。10分ほどの高座が瞬く間に終わる感じ。流れは速いが、それでも、子と父の個性は際立っている。実に小気味よい芸だ。

 浅草演芸ホールの席亭・松倉由幸氏は「江戸ことばがいいです。口調の良さは父親(五代目柳亭痴楽)の血筋でしょう。江戸ことばが出てくる噺、『大工調べ』とか、職人が出てくる噺をやると、持ち味が出る。近いうち、ここでトリを取って頂こうと考えています。持ちネタを固めていけば、将来、名人になる可能性が十分にあると思います」と期待する。

 最近の落語界ではあまり耳にしなくなった「名人」の称号。小痴楽本人に投げかけてみると、「僕の場合は『迷人』、迷う方じゃないですかね」と笑顔が返ってきた。

 1988年生まれの32歳。痴楽の次男として生まれながら、15歳まで落語を聞いたことがなかった。16歳の時に痴楽に入門を申し出たものの、すぐに痴楽が病気となり、桂平治(現・桂文治)に入門。ところが、寝坊癖のため破門された過去を持つ。

 小痴楽は「この世界がいいのは、しくじっても、許しがあることです。僕は16回チャンスをもらって、17回目で破門になりましたけど、それでも続けていられる。落語はダメな子を見捨てない。町内のみんなで吉原に行くことになれば、与太郎にも『おまえはダメ』とは言わない。与太郎を仲間に入れるのが当たり前の世界なんです」

 寝坊癖で面白い逸話がある。反省の意味で丸刈り頭にすると、当時師匠だった平治は「分かった。これから気をつけなさいよ」と許してくれた。ところが、翌日また寝坊。今度はどんな怒られ方をするかと思いきや、平治が発した言葉は「もう丸める頭がないじゃないか」。それを言われた小痴楽も「どうしよう。頭の肉はそげない」。まるで落語の一場面だ。

 「落語家は考え方がどこかズレてる。あ、そこなんだ!と思います。周りで起きたことのひとつひとつが『すべらない話』になり得えます」

 落語は、噺す人の個性に左右されるもの。まじめな人間がいかに破天荒な人物を演じようと、どうしても、まじめさがにじみ出てしまう。古今亭志ん生の噺が面白いのは、やはり、志ん生自身が本当に面白い人だったからだろう。笑いにつながる、しくじりを生むのは、一種の才能なのではないか。

 「しくじる才能はいらないなあ…。でも、『落語の中に出てくるような人間だね』と言われるのは、うれしい。これからもたぶん、いろんな意味でのしくじりがあると思いますけど、こういう人間もいるのだと、温かい目で見て頂けたら」

 落語の世界を体現できる噺家。名人への道も見える気がする。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。
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