【歌舞伎俳優・中村吉右衛門さん死去 】
「芸の鬼」と評された中村吉右衛門さん。昨年3月、新型コロナウイルス感染拡大の影響で歌舞伎公演が中止になると「これでますます芸が磨ける」と話すなど常に高みを目指し続けた。自身の性格を「不器用で、こらえ性がない。頑固で小心。後になってグチグチ言う」と分析していたが、周囲からは「穏やかで、人望がある」と慕われていた。おいっ子の松本幸四郎(48)、義理の息子の尾上菊之助(44)からは特に頼りにされ、たびたび稽古をお願いされた。
若いころは二代目のプレッシャーに耐えられず大酒を飲んで体を壊すこともあった。身長1メートル78の吉右衛門さんは中学生時代から背が高く、“クラブ遊び”でホステスとダンスなどをしていたと明かしている。通っていた暁星高校にフランス語の授業があったため、フランス人女性と交際したこともあった。お互いに真剣で、役者を辞め、渡仏することも考えたという。
無類の車好きでもあった。スポニチ本紙の取材に「今だから話せますが、14、15の頃、無免許で運転したこともあったんですよ」と明かしたこともある。
ヤンチャもした青年時代。17歳で、実父、兄とともに松竹からライバル会社の東宝に電撃移籍。ミュージカル、商業演劇への出演が続いたが、もっと歌舞伎をやりたいとの思いが頭をもたげ、単身、東宝を離れ松竹に復帰。有力な後見人がいない中で、同年代の役者と競い合い、芸域を広げていった。
愛読書はサンテグジュペリの「星の王子さま」。孤独な登場人物に、自身の半生を重ね合わせていたのかもしれない。