上村侑 映画「近江商人、走る!」主演 「正直な目」の魅力
2022年12月20日 08:00
芸能
上村は「僕と正反対です。僕は数字が苦手で、学生時代は赤点ギリギリのことがありました。そろばんを使うシーンがあったんですけど、実際に計算しないと見た時におかしいので、やばい…と思う瞬間がありました」と話す。
銀次には自分の世界があり、周りの空気は読まない。
「僕にもそういうところがあります。自分が好きなことになるとやたら冗舌になってしまう。それが許される場所ならいいんですけど、許されない場所だと縮こまってしまいます」
銀次は人を信じ、人情に厚い。
「共感できるところがあります。普通、裏切られたら、なぜ?と思うけれど、銀次も僕も、裏切られた自分が悪いと思う部分があります。最初から裏切ろうと思って近づいてくる人は敏感に分かります。でも、そうではない人に対しては、裏切られた時、自分が何かしたのではないか、彼に何かあったのではないか、と考えるタイプです。そこは似ているので、演じやすかったです」
銀次には圧倒的な決断力と行動力がある。
「僕は物事によって凄く悩む時とすぐに決められる時があります。行動力はあると思います。外に行くのが好きですし、自分が興味を持ったことはとことん研究したいタイプです」
作品を見ると、適役であることが分かる。そして何より、銀次の目の力、演じる上村の目の魅力を感じる。
「良くも悪くも正直な目だと思っています。僕が思っていることが映る。思っていないことは映らない。カメラで撮られている時、心を動かすことが大事です。便利な目をしていますけど、それを生かすも殺すも自分次第なので、最大限生かせるように、日頃から、目で何かを伝えることを意識しています」
この作品には、自身の意見で脚本を変えた場面がある。
「脚本には銀次が人を殴る場面がありました。でも、その場面まで銀次を演じて来て、銀次はどんなことがあっても人に手を上げないと思ったんです。脚本に対して何か言うのは勇気がいります。何十年もやっている役者ならともかく、僕のような若いやつが言えば生意気だと思われます。でも、銀次は絶対に殴らないと思ったので、それを監督に言いました。撮影前に監督から『思ったことは何でも言ってほしい。できる限り取り入れるから』と言われていたので、言えたのだと思います。そのシーンは、この作品にとっても、自分のキャリアにとっても、印象に残るものになりました」
確かに、作品を見ると、その場面で銀次が暴力に訴えないのは正解だと感じる。
撮影時はまだ19歳。的確な判断と映像の中の堂々としたたたずまいには驚きすら覚える。この若く優れた役者はこれからどこに向かうのか。
「たくさんの人に応援され期待されてここに立っています。それがなくなった時は、ここにいるべきではないと思います。そうならないためには、期待して声を掛けてくださった作品で半歩でもいいから期待より前に行って『上村くん、良かったよ』と言ってもらわないといけません。そして、また新しい期待を背負って自分がそれ以上のものを提供していく。その循環だと思います。大それた目標はありません。ただ一歩一歩進んでいくだけです」
今作では、一歩ではなく、二歩三歩進んだ感がある。それを伝えると、「ちょっと走っちゃいました」と、作品名にかけて応じ、20歳の若者らしい笑みを見せた。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。