「どうする家康」溝端淳平を救った蜷川幸雄氏の“金言”氏真と重なる20代の苦悩を告白「下手くそなりに」
2023年03月25日 13:50
芸能
「リーガル・ハイ」「コンフィデンスマンJP」シリーズなどのヒット作を生み続ける古沢良太氏がオリジナル脚本を手掛け、嵐の松本潤が主演を務める大河ドラマ62作目。弱小国・三河の主は、いかにして戦国の世を生き抜き、天下統一を成し遂げたのか。江戸幕府初代将軍を単独主役にした大河は1983年「徳川家康」以来、実に40年ぶり。令和版にアップデートした新たな家康像を描く。古沢氏は大河脚本初挑戦。松本は大河初主演となる。
今川氏真は駿河国大名・今川義元(野村萬斎)の嫡男。坊ちゃん育ちのためプライドも高い御曹司だが、その実、偉大な父を持つがゆえの劣等感に苦しみ、義元が目をかけた家康にコンプレックスを抱いている。
第4回「清須でどうする!」(1月29日)、織田信長(岡田准一)と盟約を結んだ家康に氏真は激怒。夜伽(よとぎ)を強いた瀬名が家康の木彫りの兎を握っていると、瀬名の血の文と壊れた兎を家康に送りつけた。「今川は今この時より、再興の道を行く!裏切った者たちに死をもって償わせよ!」――。目をむく溝端の熱演に、SNS上には「氏真、ゲスの極み」「狂気演技、流石」「視聴者のヘイトをたっぷりと集めなさった」などとヒールぶりへの反響が続出。“ブラック氏真”“闇落ち氏真”と話題を集めた。
一方、第6回「続・瀬名奪還作戦」(2月12日)は人質交換の際、氏真が家臣に銃撃の合図をしようとした時、家康の長男が「父上、父上!」。氏真は対岸の元康とにらみ合い、引き揚げた。城に戻ると、氏真も「父上…」。溝端が“2代目”の重圧や苦悩をまざまざと表現し、SNS上には「氏真を嫌いになれない」「最後の氏真くんの表情が心配すぎて→『#氏真を救いたい』で応援したくなった」などと同情や共感の声も上がった。
溝端は「望んでいなくても天に選ばれ、出世していく家康と、望んでいても時代に見放され、落ちぶれていく氏真は、まさに対照的ですよね。氏真は人に弱みを見せられない人間だと思っています。今川家を立て直そうとストイックになればなるほど、人が離れていって疑心暗鬼に陥る。自分の弱さを知っていて、人に甘えつつ、自分を支えてくれる人がいた家康に憧れていたんだと思います。将としての才能も、人徳も足りなかったのが氏真なので」と両者を比較。
悩める氏真に、自分の姿がどこか重なった。
2006年に「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」グランプリを受賞し、07年に俳優デビュー。以後、順調にキャリアを積み重ねてきたが、自身としては「最初はアイドル的な人気が出て、たくさんお仕事を頂けましたが、自分の実力が追いついていこと、ほかに実力のある人がたくさんいることも実感して凄く葛藤していた時期もあったので、そういったところで氏真に共感できる部分はありましたね」と切り出した。
08年、19歳の時、ドラマ&映画「赤い糸」は「30カットぐらいNGを出したり、もう全然ダメで。お仕事的には順調でしたけど、自分の芝居を周りの誰一人、認めてくれないという孤独感はありました」と打ち明けた。
転機となったのが、蜷川氏との出会い。13~14年に国内外(シンガポール、韓国)で上演された舞台「ムサシ」(作・井上ひさし氏)の佐々木小次郎役に抜擢。宮本武蔵役の藤原竜也らと共演した。15年には、蜷川氏が手掛ける彩の国シェイクスピア・シリーズ第31弾「ヴェローナの二紳士」で初の女役に挑んだ。
「結果が伴わなくなってきた状況で出会ったのが、蜷川さんでした。自分のどこがダメなのか、それまで誰もハッキリ指摘してくれない中で、蜷川さんは正面切って『おまえは下手くそだ』『おまえには才能がない』と。それで何か吹っ切れたんですよね。『下手くそなりに頑張ればいい』『才能がないんだから、できなくて当然。少しずつ“できる”を積み重ねていけばいい』と思えるようになって。その感覚が氏真に近かったんですよね」
第12回の予告映像。氏真は父から「そなたに将としての才は、ない」と残酷な言葉を突きつけられる。「それでも、ないなりに頑張ればいい、というのが僕の役者人生を通じての答え。例えば、大谷翔平選手のようになりたくても、きっとなれない人の方が多いと思うんです。でも、才能がある人も、ある人なりに悩んでいる。どちらも悩みは付きもの。家康のようにはなれなかった氏真の姿を通して、そんなメッセージも伝わるんじゃないかと思います」。普遍的なテーマも込められている。
順風満帆に映る溝端の俳優道だが「泥臭く生きてきたというのが実感です」。孤独感や劣等感にさいなまれた時期もあったが、蜷川氏の叱咤激励に救われた。
「人に恵まれました。(自分の努力を)見てくれている人はいるんだなと。厳しくも温かい先輩たちのおかげで乗り越えられたと思います」
最後に今後の展望を尋ねると「また悩む時期がきっと来ますし、それは来ないといけないんですけど、今回の氏真のように、いい意味で視聴者の皆さんを裏切ることができる役を頂ける機会が増えてきてありがたいです。とにかく今はどんな役でも演じてみたい。もう、お芝居がしたくてしようがない。それぐらい役者として充実していると思います」。初大河をさらなる糧に、30代を突っ走る。
=インタビューおわり=