NHK高瀬耕造アナ 「美輪明宏さんは深く優しい」

2023年07月26日 08:00

芸能

NHK高瀬耕造アナ 「美輪明宏さんは深く優しい」
Eテレ「美輪明宏 愛のモヤモヤ相談室」で共演する高瀬耕造アナウンサーと美輪明宏(C)NHK Photo By 提供写真
 【牧 元一の孤人焦点】NHK・Eテレ「美輪明宏 愛のモヤモヤ相談室」(毎月最終金曜後10・00)の司会・高瀬耕造アナウンサー(47)がインタビューに応じ、番組と美輪さんの魅力を語った。
 ──2020年の番組スタートで美輪さんと初対面した時の思いをお聞かせください。
 「緊張しました。怖かったです。アナウンサーを20年やって来ましたが、全部見透かされるのではないかという不安がありました」

 ──司会者として番組でどんなことを心がけていますか?
 「1番は、相談に来られたみなさんに、本当に相談に来て良かったと思っていただくことです。どの方もプライベートのかなり重大なことで相談に来ているので、それに誠実にお答えして、納得感、満足感を得ていただくことが大事です。もう一つは、私自身もしっかりとみなさんの話を聞くことです。それは美輪さんから学んだことです。美輪さんはいつも相談者の話をしっかりと聞いています。もう一つは、美輪さんと相談者の話がテレビの前の方々にちゃんと伝わるようにすることです」

 ──この3年間で印象に残っていることは?
 「一度、美輪さんに怒られたことがあります。収録で話がどんどん先に進んだ時、相談のそもそもの話に戻そうとしたら『あなたはいつも話を元に戻す』と言われました。流れを断ち切ってしまうのは良くないと分かっていましたが、そもそもの話を美輪さんに聞いてほしいという考えがスタッフにありました。その収録の後は1カ月くらい落ち込みました。美輪さんから直接投げかけられる言葉は重いです。実は番組が始まったばかりの頃、美輪さんに『もっと積極的に発言してくれていい』と言われていたんです。でも、私は美輪さんと相談者の邪魔をしてはいけないと思って遠慮していました。その結果、そもそもの話を押さえないうちに話が先に進んで最後の方で話を元に戻さなくてはいけなくなってしまったわけです。40代後半になって怒ってくれる人はなかなかいないので、美輪さんは貴重な存在です」

 ──相談者、美輪さん、ご自身の3者の関係性をどのように考えていますか?
 「相談者は美輪さんに相談したいと思って来ているので、私が存在を消す時間も多いです。ただ、美輪さんと相談者の間に私がいることを相談者のみなさんが心強く思ってくれる面もあると思います。相談者の中には美輪さんの方をまっすぐ見られずに私に同意を求める方もいらっしゃいます。その気持ちが分かるので、少しでも相談者のみなさんに寄り添うことができたらいいと思っています」

 ──相談者の悩みに対する美輪さんの答えで特に印象に残っているのは?
 「初回で、10年以上小劇場の役者をやっている女性が『自分は誰からも求められていない。社会から必要とされていない。だから、就職した方がいいか。親が求めるように結婚した方がいいか』という悩みを明かしました。当時はコロナ禍で、みんなが不安を抱えて社会がとげとげしかった時期です。そんな時期に美輪さんが投げかけたのが『あなたは自分を愛していますか』という言葉でした。その言葉には、周りのことに気を取られすぎて自分を見失っているという意味があるとともに、あなたはこれまでよく頑張って生きて来たというねぎらいが含まれている気がしました。その言葉を聞いて相談者は稲妻に打たれたような顔をしていました。私も心を射抜かれました。これが美輪さんか!と思いました」

 ──ほかにもありますか?
 「『あなたが今言ったことは自分本位?相手本位』という言葉も印象に残っています。周りのことでゆとりがなくなって自分を見失っている人がいる半面、自分の気持ちがどんどん高まって周りが見えにくくなっている人もいます。私自身も、自分のためであると同時にみんなのためでもあると都合よく解釈しているところがあります」

 ──この番組の魅力は?
 「極めてシンプルなスタイルの番組です。VTRもほぼなく、基本的にスタジオでの相談と答えによって成立しています。毎回必ず相談者の悩み、美輪さんの言葉と自分自身を重ね合わせられるところがあると思います。私自身も、世の中の多様な悩みに触れることができるのは幸運だと思っていますし、学びになっています」

 ──美輪さんの魅力は?
 「ひと言で表せば、優しさです。美輪さんは深く優しい方です。常にそばにいるような気がしますし、何かが起きた時に美輪さんならば何と言うだろうかと考えたりもします。美輪さんのことを考えたり思ったりするとちょっと泣けてくるんです。自分の中に美輪さんがいるのだと思います。美輪さんと一緒に仕事をしている今は、自分がこの仕事を始めてから1番幸運な時なのかもしれません」

 最後に、高瀬アナに対する美輪さんの言葉を記そう。
 「一緒に仕事する前から、程良い人だと思っていました。ちょうどいいくらいの美男子で、受け答えがとてもさりげなく、そうかと言って上っ面だけの意見を言うわけでもない。ちゃんと芯があるのに重くならず、軽すぎもしない。時折はさんでくれる言葉が一服の清涼剤みたいで感じがいい。相談者に対し、私の鋭い質問ばかりではとげとげしくなってしまいますが、私と相談者の間でさりげなく渡し船のように発言して和らげてくれます。NHKはいい人を選んでくれたと思います」

 3年にわたって一緒に番組を続けて来た美輪さんと高瀬アナ。番組を見て感じる温かさは、この2人の関係性の良さから生じているのだと思う。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。
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