立川志らく 壮大な独演会「落語大全集」継続中 「与太郎がこの国を救う」

2023年09月02日 08:05

芸能

立川志らく 壮大な独演会「落語大全集」継続中 「与太郎がこの国を救う」
独演会について語った立川志らく Photo By スポニチ
 【牧 元一の孤人焦点】落語家の立川志らく(60)が10月11日に東京・渋谷の伝承ホールで、独演会「落語大全集2023年秋」を開く。
 「落語大全集」は2015年にスタート。203席の持ちネタをテーマごとに分けて全て演じきろうという壮大な試みで、今回のテーマは「与太郎」だ。

 志らくは「与太郎は落語のスターです。どの落語家も思ってると思うんですけど、与太郎をやるのはいちばん難しいんじゃないですかね。一言で言えば、愚かな男なんだけど、もの凄く抑えて無表情でぼそっとやる人と、デフォルメしてやる人の二つのパターンがあるんです。そのどちらも難しい。抑えてやると、いわゆる愚か者に見えなくなっちゃう。激しくやり過ぎると、今は厳しい時代なので、どこかからクレームがつく可能性がないわけじゃない。亡くなった古今亭志ん五師匠は与太郎ばなしの第一人者で、もの凄く派手に表現していたけれど、あれを今の時代にやるのは難しいんです」

 志らくの師匠の立川談志さんが晩年に演じた「大工調べ」などの映像を見ると、ほとんど与太郎にデフォルメが施されていない。

 「師匠の談志や柳家小さん師匠は、ぐっと抑えてやる与太郎を極めた人です。それは難しいし、志ん五師匠がやったようなデフォルメした与太郎の方が笑いを取りやすいから、7対3くらいでデフォルメした与太郎をやる人が多くなったんです。談志は、与太郎はただの愚か者ではなく、ひとつの個性を持った人物として捉えていました。与太郎が物を10回言うと9回はピント外れで『あいつ何言ってるんだ』となるけれど、1回は真実があるんですよ。与太郎はウソは言わない。必ず本音を言う。ことによると哲学者なんじゃないかと思わせる部分がある。与太郎のように物が言えたらいいなと思わせるところもある。うちには談志が書いた『与太郎がこの国を救う』という色紙が残ってます。私は弟子だし、師匠の考えに異論がないので、そっちの方に行くと思います」

 独演会で披露するのは「牛ほめ」「金明竹」「道具屋」「大工調べ」の計4席で、会のタイトルは「大河ドラマ与太郎」となっている。

 「なぜ大河ドラマとつけたかっていうと、これらの与太郎は全部同一人物だと思ってるからです。仕事ができる与太郎もいれば仕事ができない与太郎もいるけど、それは同じ与太郎が徐々に進化していったからなんです。『牛ほめ』ではまだ何もできなくておじさんのところに行って牛をほめた与太郎が『金明竹』では骨董屋の店番をしていて、しくじる。その与太郎が商売を覚えて『道具屋』になってまたしくじるけど、ノコギリやカナヅチを扱っているうちに大工に引っ張られて腕を磨く。『大工調べ』では愚かだけれど仕事はとりあえず一人前になってる。そうなると、大河ドラマですよね。こうやってまとめてやることで、与太郎はただの愚か者じゃないと分かってもらえるんじゃないかという期待はあります」

 8月22日には新著「決定版 寅さんの金言 現代に響く名言集」(ART NEXT)を出版した。山田洋次監督の映画「男はつらいよ」シリーズ48作の名ゼリフを選び、作品の見どころを語ったものだ。

 「寅さんも現代の与太郎です。ただ寅さんには八っつぁん、熊さんの要素もある。与太郎は粋に見えないけど、寅さんは粋に見えます。今は寅さんを知らない人たちがいる時代になってきちゃっていて、それはいくらなんでももったいなさ過ぎる。寅さんはサザエさん、ドラえもんと同じで、今の人が何の知識もないまま見ても面白い。昔の日本人はこうだった、こんなに良かったんだというのを見られる。映画のファンに読んでもらいたいのはもちろんだけれど、知らない人にこんな凄いものがあるんだと教えたいんです」

 自身は8月16日に還暦を迎えた。

 「体は老化しているんです。肩が上がんなくなったり腰が痛かったりすぐ疲れたり。でも、芸だとか、それに対する欲に老化はありません。亡くなった作家の色川武大先生は『落語家は60代がいちばんいい。60代の談志さんが見たい』とおっしゃってました。だから、これからがいちばんいい時期なんじゃないですかね。与太郎が全部つながってるならば、落語の全てがつながっている可能性がある。いまやっている『落語大全集』を7、8年後に終えたら、次は150席、200席の落語をつなげていく会をやりたいと思ってるんです」

 噺家としての全盛期にさらに壮大な試みが待っている。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。
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