【栗山氏×藤井王将新春対談①】勝負の世界に生きる2人が語る至高の思考対談 日本を担う人材育成のヒント

2024年01月01日 05:25

芸能

【栗山氏×藤井王将新春対談①】勝負の世界に生きる2人が語る至高の思考対談 日本を担う人材育成のヒント
将棋盤を挟んで談笑する藤井聡太王将(左)と栗山英樹氏(撮影・白鳥 佳樹、椎名 航、会津 智海) Photo By スポニチ
 将棋の第73期ALSOK杯王将戦7番勝負(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)第1局が7日に開幕を迎える中、昨春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で侍ジャパンを3度目の世界一に導き、日本ハムのチーフ・ベースボール・オフィサー(CBO)に就任した栗山英樹氏(62)と前人未到の8冠を達成した藤井聡太王将(21)による新春対談が実現した。厳しい勝負の世界に生きる両人。勝負における思考について語り合った。(企画・構成=秋村 誠人、筒崎 嘉一)
 栗山 新年あけましておめでとうございます。藤井さんは昨年8冠となりました。今年はさらに高みを目指されると思います。

 藤井 あけましておめでとうございます。23年は自分が思っていた以上の活躍ができた一年だったかなと思います。ただ、対局の内容は一つ一つ見ていくと課題が残ったところが多くあったと思っているので、それをしっかり改善して、今年はさらに面白い将棋を指せるようにしたいと思ってます。

 栗山 7日から王将戦も始まりますね。

 藤井 本当に新年すぐに始まるタイトル戦。王将戦は注目度が高い。しっかりといい状態で臨みたいです。

 栗山 改めて8冠達成について。どのような思いですか。

 藤井 昨年は棋王戦、名人戦、王座戦と3つのタイトルに挑戦でき、思っていた以上の活躍ができた一年だったかなと思っています。8冠は自分自身驚きもありました。(永瀬拓矢九段との)王座戦と(菅井竜也八段との)叡王戦はどちらも非常に大変なシリーズ。勝った対局でも中終盤苦しい場面も多くあった。振り返って学ぶところが多いシリーズでしたね。

 栗山 監督は物凄く頭を使う仕事なんですが、考えることについて、藤井さんの思考の原点をお聞きしたくて。子供のときに最初に興味を持ったものは何でしたか。

 藤井 将棋を始めたのは5歳でしたけど、それより前から鉄道が好きで、小さい頃から家族に連れて行ってもらって電車を見ていた記憶があります。路線図とか時刻表を見たりするのが好きだった記憶があります。想像の中で旅をできるというところが面白かったのかなと思います。

 栗山 私も子供の頃に近くの駅からいくつ駅の名前を覚えられるか挑戦していました。将棋を始めて、奥深さとか、相手に勝てるとか、いろんな喜びがあると思いますが?

 藤井 勝てるということが単純にうれしかったと思います。最初は家で家族と、特に祖母や祖父と指していたんですけど初心者だったおかげですぐ勝てるようになって、それがうれしくて続けられた。将棋が成功体験になったというのが凄く大きかったと思います。

 栗山 将棋以外に小学校のときの思い出は何かありますか?

 藤井 そうですね…何でしょうか。小学校のときに絵を描く授業があって、なぜか(絵で)入選か何かしたことがあった。ずっと自分では絵が苦手だと思っていたので不思議と同時にうれしかった思いがあります。絵は実際、下手で…。

 栗山 私は監督をやっていて、もうこれ以上考えられないというほど疲れることがあります。藤井さんも戦いが終わったら全身の力が抜けるくらい脳の力を使うと思う。勝つために体力も必要なんですが、藤井さんはいつまでも考えていられるように感じられる。

 藤井 対局が長い時間ですと、だんだん疲れてくるんですけど、凄く一番集中できている状態ですと、そういうことが忘れられるというか。疲れているんですけど、そこを意識せずに没頭できているということなのかと。

 栗山 深く考えていて、どこかで思考を途切れさせると全然違うものになる。でも、時間が来たら焦りますよね、それでも思考を最後まで続ける?

 藤井 将棋は相手が考えている時間もあって、そういうときも自分の手番と同じように考え続ける。特に時間がないときだと重要になると思います。自分の状態としては、ずっと考え続けている状態を維持した方がより深く考えていけるので、意識しています。

 栗山 例えば野球をやっていて、大谷翔平のような有名選手が来たときに(相手が)圧倒されることで勝つこともある。そんなことはありますか。

 藤井 奨励会に入ってから年上の方との対局が多かったので、やりづらさを感じることも時にはあったと思います。対局を重ねていけば盤上の勝負になるということが感覚的にも分かるようになり、少しずつ慣れていったのかなと思います。

 栗山 この年齢でと言うとおかしいかもしれませんが、藤井さんは何が起こっても全部受け止められる雰囲気に見える。私たちは“これは嫌だな”と思ったりしますが、そういう時はありますか?

 藤井 あります(笑い)。そういうことももちろんあります。対局の時に自分が明らかにミスしてしまったなと感じる時があるので、そこでどう気持ちを立て直すかということがやっぱり難しいところだと思います。

 栗山 すみません。藤井さんの普段が全く見えなくて。将棋の勉強とか対局している以外の時間はどのように使われるんですか。

 藤井 いや…あっ、でもなんていうか、将棋以外は普通に過ごしていて、最近ではコタツでのんびりしてというのも、もちろんあります。

 栗山 イライラしたりすることは?

 藤井 何でしょう…。(タイトル戦ごとに変わる)対局室の温度には敏感かもしれません。前日検分のときと違って暑くなっていたなら教えてほしかったとか(苦笑い)。

 栗山 一日ずっと将棋のことを考えない日ってありますか。

 藤井 一日考えないことはなく、どこかで考えたくなる。全く(将棋のことに)触れないと落ち着かないというところはあります。

 栗山 噂で聞きましたけど、棋士の皆さんは車の運転をしない。運転してると盤面が浮かんできて危ないんだと。普段、ふと(将棋のことが)浮かんで物を忘れてしまうとか。

 藤井 忘れ物は最近は少なかったと思うんですけど、小学生の頃は多かったと思います。下校途中に将棋のことを考えながら歩いていたら、目の前の電柱に当たってしまったということが…(笑い)。

 栗山 本当ですか(笑い)。じゃあ、もう考え出したら、そればっかりが頭の中に浮かぶ。

 藤井 一度考え出してしまうとそっちに意識が行ってしまうこともあるので、私自身も運転免許は取らない方がいいかなと。

 栗山 大谷選手はよく“考えた者勝ち”っていうことを言うんですよ。自分でどうしたらいいかを常に考える。考えて自分が“こうする”と決めて行動して勉強したら、前に進むんだ、と。藤井さんも子供の頃からずっとモノを考えている。

 藤井 自分自身がどうすれば強くなるかということを意識し始めたのは、奨励会の三段くらいからです。ただ始めた頃から詰め将棋が凄く好きで、将棋にもかなり生きたかなと思っています。

 栗山 藤井さんは負けず嫌いですか。

 藤井 特に子供の頃は大会で負けて泣いてしまったりということもありました。ただ、逆に負けて悔しい経験ばかりだと嫌になってしまうというのもある。その点、詰め将棋は勝ち負けでなく、問題を解くパズルのようなものなので、好きでやっていたことがモチベーションを維持することにつながっていったんだと。初めて教室に通ったときに詰め将棋を教えていただき、そこで解けたというのも大きな成功体験だったかなと思います。

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