【栗山氏×藤井王将新春対談②】極限の勝負で経験した「窮地」でのメンタル 栗山氏「ストンと落ちました」
2024年01月01日 05:24
芸能
藤井 対戦相手のことを調べる比重も高くなってきていると思います。ただ、結局、想定される展開を事前に調べてもどこかで外れることになるし、そこでどう対処するかということが一番大切なことなので。事前の準備に比重が傾き過ぎないようにするのが大事かなと思います。
――王将戦では菅井竜也八段と、叡王戦以来の再戦となりますが準備の方は?
藤井 私が棋士では多数派の居飛車党で、菅井八段は振り飛車党。つまり居飛車対振り飛車の経験値は菅井八段にあります。開幕までに少しでも埋めないといけない。(振り飛車に関して)最高の技術を持っていますからね。
栗山 野球では大事な試合終盤に相手の控え選手が何人いて、この投手を出すと代打でこの選手が来て、というような3手、4手くらいのイメージは湧くんですよ。将棋を指す中で、映像としてどれくらい頭に浮かんでくるものなんですか。
藤井 やはり理想を言えば必要なだけ読むということですが、先を読んでいって、その局面の形勢を判断するのに十分というところまで読むのが理想にはなります。序盤中盤だとなかなか分岐が多くて先まで見通すのは難しいです。終盤だと30手40手先を考えてという局面もあると思います。
栗山 私が2回、日本ハムで優勝(12、16年)したとき、お金があるチームではないので断トツでは優勝しないんですよ。最後に優勝争いで競ったとき、主力選手が2回ともケガしたんですね。普通に戦うと、その選手がいない分チーム力が落ちているので、大きな手を打たないと一気にいかないと思った。そういう苦しくなったときは無難な手でなく、ゼロか100の手を打つべきだと経験上、監督として学んだんですけど、対局で不利な状況の時に一気に流れを変えないといけないということは?
藤井 やはり苦しい局面ですと、相手も考えているような自然な手を指しても想定内で進行してしまうので、どう相手を崩すかが問われてくるのかなと思います。そこでイレギュラーな手を考える中で、駄目そうだけど意外と可能性がある手を探していくという感じです。
栗山 やっぱりそうなんですか!(専門家の)皆さんが“その手は普通ない”というのに、藤井さんが形勢逆転するときがある。それは自分の中で“リスクもあるけど、ここは勝負だ”ということもあるんですよね。
藤井 局面で苦しいとき、こう指されたら厳しいだろうなと思いながら指すことにはなるんですけど、ただ、そういう展開の読みで逆に“こうなったら自分が逆転できるんじゃないか”と。そういう展開を考えて、少しでも可能性が高い手を選ぶということなのかなと思います。
栗山 野球も全員が苦しいけど、絶対に何とかなると思ってやりきっていくと、可能性が出てくる。
藤井 明らかに苦しくなってしまって、厳しいなと思うことも当然あるんですけど、勝つことに執着するとかえってズルズルいってしまう。一回心の中で“この将棋は駄目だな”と見切りをつけた上で少しでも可能性がある手を探すことがいいのかなと思います。
栗山 今、自分の中でストンと落ちました。駄目なモノは駄目と認めて切り替えて、そこから状況を打ち破る新たな手を考える。駄目なのに勝ちたい、勝ちたいっていくとズルズルいってしまう。
藤井 もちろん負けたくないという気持ちは大事なんですけど、ただ、それで負けを先延ばしにする手を選んでしまってはいけない。これは駄目だろうと割り切ってしまえば、勝負手が指しやすくなるのかなと思います。
栗山 これから藤井さんのように日本を代表する若い人たちがいっぱい出てくることを願っている中で、自分の夢をかなえるためには“こういうことが必要だった”というようなヒントをもらえたらうれしいんですが。
藤井 はい。自分のことが参考になるか分からないですが、将棋を好きでずっとやっていて、詰め将棋も同じくらい好きで、特に子供の頃に大会で良い成績を挙げたことがあった。将棋は勝ち負けがつくので調子がいいときもあれば悪いときも出てしまうんですけど、その詰め将棋がモチベーションを維持する支えになったかなと思います。
栗山 なるほど。私も子供たちによく言うんですが、最初は楽しかった野球がだんだん苦しくなったり、つまらなくなったりする。どうやったら好きなままでいられるか環境をつくってくださいとお願いしている。今のお話はめちゃくちゃヒントになった。藤井さんにお会いして、目標がはっきりした。藤井さんのような日本人を一人でも生み出したい。これはめちゃくちゃ大きな課題です。今年から人を育てる側(日本ハムCBO)に回るので、そういう人をつくっていきます。ヒントを頂いて本当にありがとうございました。
藤井 はい。ありがとうございました。