【鈴木康弘「達眼」馬体診断 】
馬肥ゆる秋、読書の秋。「オズの魔法使い」と甲乙つけがたい児童文学の名作を挙げるなら、この本から3年後の1903年に出版された「野生の叫び声」です。飼い犬の「バック」がソリ犬として人間との絆を深めながら極寒の自然の中で野性に目覚めていくストーリー。作者はジャック・ロンドンですが、馬名のロンドンと語呂合わせしたいわけではありません。タワーオブロンドンの立ち姿は極北の過酷な環境に挑むソリ犬を思い起こすほどりりしい。尾を少しだけ上げているのに力みがありません。目、耳、鼻を前方の一点に集中しています。
以前からこんな姿だったのか。昨年のNHKマイルCの馬体写真と比較してみると…。当時は尾を上げながら全身を力ませていました。その後、藤沢和厩舎のスタッフと絆を深めながら厳しい戦いを繰り返すうちにりりしく成長したのでしょう。3歳春当時から馬体の完成度は際立っていた。成長のバロメーターでもあるキ甲(首と背の間の膨らみ)は、テムズ川の岸辺に威容を誇るロンドン塔(タワーオブロンドン)のように突き抜けていました。あれから1年半を経て、トモと肩に城壁のような厚い筋肉をつけている。3歳春当時のマイラーを思わせる体形からスプリンターの体形へ。競馬を重ねながら短距離馬としての本性を表してきたのか。野性に目覚めるソリ犬のように…。ともあれ、距離短縮を心配するような体つきではありません。
調子がいい時はレース間隔を詰めて使ってもこたえない…私の持論です。競走馬の「バック」はキーンランドC後、札幌から美浦へ戻り、中1週で阪神のセントウルSに出走。再び美浦へ戻って中2週で本番に臨みます。一見強行軍に思えるローテーションでも調子がいいから馬体は張りに満ちている。ゆとりのある腹周り。肋(あばら)が5本ぐらいうっすらと映って非の打ちどころがない仕上がりです。
「オズの魔法使い」か「野生の叫び声」か。秋の夜長に名作のページをめくってみることにしましょう。