【宝塚記念】ジェネシス100点!“華麗なる変身”オオゴマダラの羽化のよう
2020年06月23日 05:30
競馬
その美しい姿は「南国の貴婦人」、その優雅な羽ばたきは新聞紙が風に舞っているように見えるため「新聞蝶」とも呼ばれるらしい。沖縄で暮らす娘家族に会うため同県を訪問した先週、そんな県蝶の成長物語を耳にしました。幼虫時代には外敵の鳥に捕食されないよう体内に毒を取り込み、やがて金色のサナギに変わります。鳥は金属光沢を嫌うため金色に輝いて身を守るそうです。金色のサナギから羽化して「南国の貴婦人」が誕生します。
その華麗なる変身はクロノジェネシスの成長物語に置き換えられる。昨春までは蝶が舞うような軽快さと柔軟さを併せ持つ一方で、薄っぺらなトモと巻き上がった腹が頼りなく映りました。幼虫のジェネシスです。ところが、3歳夏を境にトモに見違えるほど筋肉がついた。桜花賞、オークス(ともに3着)時には430キロ台前半だった馬体重が20キロ近く増えていました。サナギのジェネシスです。そして、今回。大阪杯から2カ月半しかたっていないのに腹周りがふっくらと丸みを帯び、幅が出てきた。著しい成長。羽化が始まったのです。
元々、骨格はスリムでも蝶のようにバランスが取れた馬体。トモから飛節、球節、つなぎ、蹄まで各部位が過不足ない大きさと絶妙な角度でリンクされています。筋肉マッチョなマイラー体形の半姉ノームコア(昨年のヴィクトリアマイル優勝)とは対照的なしなやかで繊細な筋肉を身につけた中距離体形。姉が造形美なら、妹は機能美の名牝といっていい。そこに馬体の幅まで加わったのです。見栄えしづらい芦毛なのに毛ヅヤが光っている。「南国の貴婦人」と呼びたくなる姿です。
競走馬のオオゴマダラは大きな羽を広げてどこまで飛翔するのか。摩文仁の夏空を舞う県蝶にその姿をダブらせてみたい。せめて今日ぐらいは競馬が続けられる恒久平和を祈りながら…。(NHK解説者)
◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の76歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。