渾身の1試合50得点 どん底からはい上がってきたデリック・ローズのNBA人生
2018年11月02日 16:47
バスケット
栄光からどん底に落ちたNBA人生だった。
2008年のドラフトで全体トップでブルズに指名されてNBA入り。新人王に輝き、3季目には81試合に出場(欠場1試合のみ)して平均25・0得点、7・7アシストをマークして正真正銘のシーズンMVPに選出された。
1メートル91、91キロとサイズ的に恵まれているわけではないが、パサーやシューターではなく恵まれた身体能力を生かしてグイグイとインサイドに突っ込んでいく超攻撃的なポイントガード。誰もがその後のNBAを背負っていく看板選手だと信じた。
しかし好事魔多し。2012年のプレーオフ1回戦(対76ers)の初戦で左膝前十字じん帯を断裂して翌シーズンは全休となった。復帰後も故障に泣かされる。2013年の開幕11戦目で今度は右膝半月板を損傷。2度目の手術を受け、再び長期間戦列を離れた。2015年の2月には再び右膝の半月板を痛め、通算3度目の手術。卓越した身体能力は度重なった故障の影響でさびつき始めた。
2016年にニックス、17年にはキャバリアーズに移籍。しかし無断でチームを離れることがあり、精神面でも支障をきたすようになった。「自分はもうダメなのか…」。ほんのわずかな故障でも過度に反応することがあったという。しかしそれは彼の過去の故障歴からするとやむをえないものだっただろう。
昨季途中にキャバリアーズ、キングス、ジャズの間で成立した三角トレードでジャズに放出されたが、ジャズは同じくキャバリアーズから獲得したジェイ・クラウダー(28)はキープしたものの、肉体的にも精神的にも不安定だったローズは商談が成立した2日後に解雇。かつてリーグのMVPにまでなった男が見切りをつけられた瞬間だった。
そのジャズを相手にして達成した50得点。五体満足だったブルズ時代の自己最多得点が42得点だったことを考えると、誰もがその記録更新に驚いた。それは自分を捨てた球団に対するリベンジだったのか?それとも運命的で奇跡的なパフォーマンスだったのか?答えがどちらかはわかないが、ジミー・バトラー(29)とジェフ・ティーグ(30)の主力2人の故障欠場を受けて代役で先発したローズにとっては人生の中で「最も泣ける試合」となった。
ティンバーウルブスを率いているのは、かつてブルズで指揮を執っていたトム・シボドー監督(60)。ローズのことを誰よりも理解している指揮官がいたからこそ、このチームで働ける機会を得たと言ってもいい。そのシボドー監督は「彼は多くの挫折を経験してきた。でも彼は最もタフな人間の1人なんだ」とコメントしている。よき理解者の存在もこの日の復活劇には欠かせなかった。
今季限りでの現役引退を表明しているヒートのドウェイン・ウェイド(36)は「世界中のすべてのバスケのファンがローズのことを喜んでいるはず。誰かが信じてくれるなら、自分のことをあきらめてはいけないんだという典型的な例だ」とツイート。リーグを代表するベテラン選手の背中をも押す画期的なパフォーマンスとなった。
2016年に引退した元レイカーズのコービー・ブライアント氏は現役最後となったレギュラーシーズン1346試合目で60得点をマーク。「まだそんな力があったのか?」と予期せぬ圧巻のパフォーマンスは多くの人を驚かせた。
「自分の前に差し出されるものがあればそれをつかんでいくだけ」と語ったローズのNBA人生はまだ続いている。そこがブライアント氏とは違うだけに、もうひと頑張りを期待したい。今季の年俸はリーグ平均の約5分の1となる151万ドル(約1億7000万円)でしかないが、この50得点で今後対戦する相手はもう彼をただのロールプレイヤー(控え選手)だとは思わないだろう。
タオルで目を覆いながらファンへの声援に感謝して突き上げた右腕には「耐心」という中国語のタトゥー。デリック・ローズという人間の執念と気迫と人生をこの2文字に垣間見た気がする。
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には8年連続で出場。今年の東京マラソンは4時間39分で完走。
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