3P成功率部門で1位 渡辺雄太がNBAで見せている異色の数値 初年度12・5%からの大躍進

2022年11月25日 10:30

バスケット

3P成功率部門で1位 渡辺雄太がNBAで見せている異色の数値 初年度12・5%からの大躍進
NBAの3点シュート成功率部門でトップに立っているネッツの渡辺雄太(AP) Photo By AP
 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】私が高校生活最後に決めたシュートは3点シュート…だったはず。「だったはず」と言わざるを得ないのは距離はそうであってもルールがなかったから。コアな昭和世代でバスケに身を投じた人ならわかってもらえると思う。
 ファウルゲーム?そんな概念はない。アナログの得点板にある後半の残り3分からの時間表示は赤で示されていたので私のいた地域では「赤タイム」と呼んでいた。その後半残り3分からのオフェンス・ファウル以外の反則はすべて相手にフリースローが与えられていたので、ベンチからはいつもこれくらいの時間帯になると「赤タイムや。反則すんなよ」という声が飛び交っていた。

 パンツは短く、基本はハイソックスでバッシュは重い。シャツは綿100%なので“吸湿遅乾”はあたりまえ。我がチームには人一倍汗かきの選手がいて、彼はその汗をシャツにため込んでマッチアップした相手にぞんぶんに振りかけていたので?かなり嫌がられていたと思う。タイムアウトで汗は拭けても水を飲むことは事実上許されていないので冷房のない真夏の体育館での試合でも、喉の渇きに耐えていた。

 スポーツの環境とルールは時代とともに変化していく。バスケットボールもそうだ。NBAが対抗組織だったABAで採用されていた3点シュートを導入したのは1979年からで日本では85年から。私の“バスケ青春時代”はとうに終わっていた。

 NBAでは得点効率の観点から、チーム全体で3点シュートの成功率は30%台中盤から後半を維持できるなら、2点のシュートを狙うよりも3点シュートをより多く投じた方がいいという概念が2000年以降、急速に浸透。90年代まで見られていたトライアングル・オフェンスなどのモーション・オフェンスはいかにしてオープン・スペースにいる選手を生み出すかを目的にしていたが、3点シュートを打つなら相手ディフェンスをまず収束させた上で外にパスを出す(キックアウト)する方が得策だと考えられるようになった。

 なので、誰かがまずインサイドに切り込んで敵を引き寄せることでオフェンスは始まり、ボールサイドにもヘルプサイドにも正面よりわずかに3点シュートの距離が短いコーナーにシューターを配置するようになった。必然的にディフェンスもそれに対応するために変速ゾーンを多様するケースが多く、3点シュートを打つにも20世紀とは違って格段に圧力を受け、労力がかかるようになった。

 その3点シュート成功率部門で、シーズン序盤でネッツの渡辺雄太(28)が現時点でリーグ1位となっている。得点、リバウンド、アシストといった個人記録の“スター部門”ではないものの、500人を超えるNBA全選手の中の“首席”が日本人選手というのは、地元のメディアでさえも驚きを持って報じられている。しかもグリズリーズでデビューした2018年シーズンに12・5%(16本中2本=出場15試合)だったものが57・1%(42本中24本=出場14試合)にまでアップ。ラプターズに在籍していた2020年シーズンに50試合で記録した自身の年間最多本数にすでにあと12本まで迫っている。

 NBAの3点シュート成功率部門の歴代トップは2009年シーズンに当時ジャズに在籍していたカイル・コーバー(1位は計4回)がマークした53・6%(110本中59本)。いかにシーズン序盤であっても渡辺はこの数値を超えているので、日本国内でもっと驚きと評価を持って受け入れられてもいいと思う。

 成功率部門に必要な規定本数は2013年以降は試合数と同じ(最終的に82本)。コーバーが歴代最高を記録したときの規定本数は55本だったので現在ならば対象外となる。歴代2位は通算成功率(45・4%)で1位となっているスティーブ・カー(現ウォリアーズ監督)がブルズ時代の1994年シーズンにマークした52・4%(170本中89本)。もし渡辺が現在の調子を維持して82本の規定本数をクリアすると、この名シューターたちを乗り越えていく可能性がある。

 コーバーのNBA初年度の3点シュート成功率は39・1%でカーは47・1%。もともとシューターとして出来上がってきた形でNBA入りしており、渡辺とは“進化”のプロセスが全く異なっている。

 2000年以降に1位となった選手でデビュー年の成功率が最も低かったのは、スペイン出身のホセ・カルデロンがラプターズ時代に記録した16・3%(2005年シーズン)。ティム・レグラー(1989年・サンズ)とキキ・バンダウェー(1981年・ナゲッツ)が新人時代の「成功0本」からその後に1位となったケースはあるが、グリズリーズ時代の2018年シーズンに16本中2本しか決めることができなかった選手がこのレベルまで達していることは、長いNBAの歴史の中でもレアケースなのだ。

 「日本人選手がNBA個人記録の1位」。40年前、記者人生をスタートしたときに予想もしなかった原稿を私は今、書いている。もちろん3点シュート部門で注目を集めるのは成功本数の方。それは得点にも直結するので成功率部門がその影に隠れてしまうのは否めない。それでも昭和に青春時代を送ったバスケ選手が記録に残せなかった部門に、日本人が世界最高峰のリーグでそのトップに名を連ねているのを見るとなんだが誇らしい気分になる。そして渡辺が決めていく3点シュートの1本1本には、遠い昔にコートを疾走した多くの人の夢と思いが込められているようにも思う。だからこの先、どんな結果になっても私は“快挙”と記すことにする。

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には7年連続で出場。還暦だった2018年の東京マラソンは4時間39分で完走。

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