オリックス「8回の男」海田 「地獄を見た」男の復活、1試合に懸ける思いとは

2019年07月29日 15:35

野球

オリックス「8回の男」海田 「地獄を見た」男の復活、1試合に懸ける思いとは
オリックス・海田 Photo By スポニチ
 大げさな言い方だが、地獄から帰ってきた男がオリックスにはいる。7月28日時点で、すでに34試合に登板した海田智行投手だ。13ホールドはチーム3番目の成績。4月16日に1軍昇格した当初は敗戦処理だった役割が、今や勝ちパターン継投の一角を担う「8回の男」になった。防御率1・55も抜群と言えるが、28試合目だった7月8日の楽天戦までは防御率0・38。この安定感、復活の要因は何だろうか。
 「何ですかね。特にないですけど。打者に向かっていっているところですかね。とにかく腕を振るというか」

 照れ屋というか、あまりこちらの取材に乗ってこないのも海田らしい。しかし、言葉にすると普通に聞こえるが、心境の変化、土俵際での踏ん張りで左腕の運命は大きく変わったと思う。

 「まあ、地獄を見たというかね…」

 いつか、ボソッと口にした言葉が私は忘れられない。海田を語る上では、4年前まで振り返る必要がある。2015年には48試合、2016年に50試合と、中継ぎの戦力としてチームを支えていた。だが、その2年間で眠っていた“ネズミ”が騒ぎ出した。ネズミとは、俗に言う遊離軟骨だ。元々、入団当初から左肘に2つのネズミがいた。痛みが出ないという理由で、そのままにしている選手も多いが、海田もその1人。「あの2年間で、登板後の肘の張り方が変わってきて。ネズミが悪さしだしたな、と思いました」。それが悪夢の始まりだった。

 当時のチーム状況から保存治療で処置していたが、完治には至らず、ついに手術を決断。内視鏡で5カ所に穴をあける遊離体除去手術、さらに骨棘もクリーニングによって除去した。しかし、痛みと同時に良かった時の投球感覚もなくなった。「取ってみると、なかなかの“大物”で」。大物だったことも不調の要因になったのだろうか。思った球が投げられず、試行錯誤するが元に戻らない。「去年は悔しかったです。歳も歳だし、色々考えてしまった」。わずか4試合登板に終わった昨秋、誰もが経験する戦力外通告の恐怖を抱えていたという。

 心の支えはとにかくシンプルなものだった。「手術してからは挑戦だと思っています。1軍のマウンドにもう一度立ちたい。手術前の登板が現役ラストだったかもしれない。そう思うと、毎試合をとにかく大事にしようと思うようになりました。悔いの残らないマウンドにしなければ」。苦しい時期を経験したことで、目の前の1試合に全力を注ぐという、大事な思いに気がついた。その積み重ねが、この安定感につながっているようだ。

 実は昨年、ラスト登板だったのが中日戦だ。今季6月12日、その中日戦で象徴的なシーンがあった。6回、竹安が招いた無死一、二塁のピンチでマウンドに上がり、藤井、京田と抑えて、そのまま7回もマウンドに上がったが、2死二塁の危機を背負った。迎えるのは大島だ。
 日本生命の先輩でもあり、合同自主トレをする大島を、海田は「スーパーな人」と称して尊敬している。その大島に、追い込んでからも粘られたが、8球目のカットボールで一ゴロ。同点の場面を何とか無失点で切り抜け、この時点で海田は17試合連続無失点に伸ばした。一塁ベースカバーに走り、そのままベンチに下がる際、すれ違った大島に笑顔で言葉を交わされた。昨年は2軍降格となった因縁の試合。今年は真剣勝負の末「球界を代表するスーパーバッター」を牛耳り、復活を印象づけた。「やり返したいと思った中日戦だったので。洋平さんと対戦できて楽しかった」と控え目ながらも喜んだ。

 増井や吉田一の不調、沢田の骨折など中継ぎ陣は開幕当初の構想からは大きく違う。その上で、海田までいなかったことを考えるとオリックスにとっても“地獄”ではないか。これから順位争いが佳境になる夏場は、もはや不可欠な存在だろう。

 昨年10月、第1子となる長男が誕生した。息子が物心が付くまでマウンドで投げ続けたいと思うのは、多くの野球選手と同じ気持ちだ。これからも、積み重ねる気持ちでマウンドに上がり続ける。(オリックス担当・鶴崎 唯史)

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