たかがキャッチボールの相手だけれども

2020年03月01日 08:00

野球

たかがキャッチボールの相手だけれども
巨人の長嶋茂雄終身名誉監督 Photo By スポニチ
 【君島圭介のスポーツと人間】元巨人投手で、プロレスラーのジャイアント馬場氏が亡くなったとき、当時巨人監督だった長嶋茂雄氏が興味深い話をしてくれた。
 「プロに入って最初のキャッチボール相手は馬場ちゃんだったんですよ」

 長嶋氏が立大から巨人入りし、初めて参加したプロの練習だった。周囲は東京六大学野球の大スターによそよそしい態度を取った。プロ野球より大学野球の方が人気が高かった時代だ。多分にやっかみもあったのだろう。

 やがてキャッチボールが始まったが、誰も長嶋氏の相手をしてくれない。途方に暮れていると「長嶋くん、一緒にやろう」と声をかけられた。その人物こそが、のちにジャイアント馬場としてプロレス界の英雄となる、馬場正平先輩だったという。

 さて、沖縄での春季キャンプから本拠地の仙台に戻った楽天の取材中、ある光景が目に止まった。銀次と鈴木のキャッチボールだ。どちらが誘うわけでもなく、当たり前のように2人で投げ合い始めた。

 銀次は「いつの間にか組んでいた」と笑い、鈴木も「キャンプでは意識して色んな人と組んだが、気がついたら銀次さんになっていました」と教えてくれた。

 浅村の相手が高卒ドラフト2位ルーキーの黒川(智弁和歌山)だったのも驚いた。球界を代表するスラッガーが同じポジションとはいえ、キャッチボール相手に18歳を指名するのは異例のことだ。

 この2組を眺めながら、今年の楽天は強いと確信した。ロッテからFAで移籍した鈴木は、鳴り物入りでプロ入りした長嶋氏と立場が似ている。孤立してもおかしくはない。だが昨年の主将で、チームの顔でもある銀次がキャッチボール相手を務めることで周囲は落ち着いた。年齢も実績も似ているこの2人の間に距離があれば若手は気を使うし、たちまち派閥が成立してしまう。

 浅村には大器を一流まで育てようという意図が見えた。黒川に聞くと「野球以外のことでも気軽に話しかけてもらえる」という。相手は浅村だ。緊張するかといえば「ノリが関西人で話しやすい」と平然としている。

 オフに戦力の大量入れ替えを敢行した楽天だけにチームバランスが気になっていたが、心配なかった。横も縦もしっかりと団結していた。キャッチボールは重要なウォームアップであり、送球や投球フォームの確認手段だが、相手にも意味がある。あの長嶋氏が初めてのキャッチボールを何十年も覚えていたほど。実は深いのだ。(専門委員)

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