阪神・新井貴浩は18年ぶり甲子園開幕を生涯忘れない――3・11 セパ同時開催へ戦い続けた選手会長
2020年04月01日 05:30
野球
能見篤史と前田健太の投げ合いで始まった一戦。序盤から一進一退の攻防だった。2度目の劣勢に立たされた直後の6回無死一、二塁。猛虎4番の重責も背負って3度目の打席を迎えた。追い込まれた後の直球を中前へ。殊勲の同点打が後続の勝ち越しを呼んだ。
開幕日の朝、例年のように食卓には赤飯や鯛を並べなかった。開幕を祝う心境とは違ったからだ。「夜からいろんなことを考えていた」。3月11日に東日本大震災が発生。労組・プロ野球選手会会長として被災地に本拠を置く楽天選手らから悲痛な訴えを聞き、セ・リーグのみ予定通り3月25日の開幕へ進む動きに異を唱えた。
「プロ野球が何を見せるべきかということが問われている」
望んだのは、球界一丸を象徴するセパ同時開幕。調整の合間を縫って選手の意見を集め、官公庁を訪ねて思いを伝えて回った。「球界がひとつになれるように」の一念だった。
過密日程に伴う大連戦や野球協約で定められた参稼期間外の12月まで日本シリーズがずれ込む可能性も覚悟した。「144試合、クライマックスシリーズ、日本シリーズすべてを絶対にやり遂げる。万が一、12月になってもやる」。強い決意が最後は連盟側を動かした。甲子園開幕は18年ぶり。試合直前まで仲間とともに募金活動で球場外周に立った。震災後には無観客試合を経験。「見てくれる人がいないことがどういうことなのか思い知った」。使命を再認識した出来事だった。
あれから9年後、球界は再び<開幕延期>に直面した。「いままで経験したことがない事態。選手は難しい調整になるので、けがには気をつけてほしい」と気づかい、「機構や球団の人たちも大変だと思う。今回は選手と球団が同じ方向を向いて戦っている」とうなずいた。ユニホームを脱ぎ、開幕を待つ思いはファンと同じ。「選手にできることは、グラウンドで精いっぱいプレーすることしかない。その姿を見て、何かを感じてくれたら。世の中が暗くなっている。少しでも明るさを取り戻せるようなプロ野球であってほしい」。心の底から願っていた。
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