【タテジマへの道】高橋遥人編<下>大学ラスト登板での悔しさを胸に
2020年04月20日 15:00
野球
指揮官がほれた才能は、トレーニングで開花していく。ボートを漕ぐ動きを繰り返すエルゴメーターと呼ばれる器具やフィットネスバイクを使ってのトレーニングで下半身や体幹を中心に鍛え抜かれた。「太腿の裏を鍛えて、脚でかく力、地面を蹴る力を強くする。それが球のスピードや精度につながる」という黒沢監督の理論のもと、遥人は着実に成長した。食事でも1日最低1キログラム以上の摂取(おかずも含め)をノルマとして課された。それまで小食だった遥人は、のみ込めずに頬(ほお)にため込む姿がおなじみとなり「お前はリスか!」といじられることもあったが、必死に食べ、確実に体も大きくなった。
1年夏からベンチ入りし、2年夏だった2012年は2番手投手として静岡大会優勝に貢献し背番号10ながら甲子園出場を決めた。チームは開幕戦で福井工大福井と対戦し2―4で敗れたが、遥人は4点ビハインドの5回途中から登板し最速136キロの直球主体に4回1/3を3安打無失点。「プロのスカウトからは“ボールの質がすばらしい”という話が出ていたみたいです」(黒沢氏)と一躍、注目を集める存在となった。
期待された同秋は静岡大会で早々に敗退し選抜出場は逃した。ただ「下半身のトレーニングと体を大きくすることは継続してやってきた。それが大きかったと思います」と振り返るように、入学時は130キロに届かなかった直球の最速は142キロを計測するまでになった。
3年春の静岡大会ではベスト4入りを果たし迎えた最後の夏。思うように力を発揮できず同大会4回戦で敗れた。プロ志望届を提出したが、ドラフト会議でも指名漏れ。悔しさが募る1年となったが、周囲の勧めから亜大で野球を続けることを決断した。その4年間が、遥人を想像以上に成長させることになる。
亜大進学直後、遥人はフォーム改造に成功した。悪癖だった「肩が開く」フォームを矯正するため“逆転の発想”を利用。「開かないように、足を上げたときにひねっていたんです。それが逆効果でした。ひねると反動で逆に開いてしまう。だったら、最初から開いておこうと」。
打者でいう、オープンスタンスでセットしてから投球動作に移る。開きを抑えることで球に力が伝わるようになった。入部直後の3月からオープン戦のマウンドを任され、社会人チーム相手に直球で押し込む投球を見たプロスカウトからは、「なぜあいつを(高卒で)獲らなかった」との声が上がったという。
3年時に最速は151キロまで伸び、同年秋季リーグでは1勝ながら56回2/3を防御率2・38。ドラフト候補に名を連ねた1年後、阪神から2位指名を受けた。
だが、喜びは束の間だった。「本当に情けなかったです…」。そう振り返るのは11月4日の東洋大との東都大学野球優勝決定戦。「ドラ2左腕」として注目を浴びながら、シーズンからの不振で先発ではなく、0―1の4回2死二、三塁で登板すると、ストレートの四球を与え、次打者の初球がボールになったところで交代を告げられた。わずか5球。チームは敗れ、学生野球が終わった。
「監督さんは、調子が悪いときでも使い続けていただいた。それに応えられなくて、本当に申し訳ないです」
この借りを返すには、プロの世界で活躍するしかない。その思いを胸に、遥人は勝負の世界に飛び込む。
身長1メートル79の父・智太郎さん、1メートル77の母・朱美さんの間に生まれた4男1女の5人兄妹の次男。4男はみな1メートル80を超える長身一家だ。活発な性格が多い兄妹のなかで、遥人は控えめ。「感情を表に出す方じゃない。メンタルは弱いかもしれません」と、智太郎さんは言う。小学生の時から「俺が打たれて負けたらどうしよう」と、ネガティブに考えてしまうタイプだった。
「もう少し生意気な部分があっても良いかもしれません。『打てるものなら』ぐらいにメンタルが強くなれば、必ず大丈夫だと思います」
おとなしくて、控えめな遥人の、新たな挑戦が始まる。
(2017年11月23、24日付掲載、一部編集 おわり)
◆高橋 遥人(たかはし・はると)1995年(平7)11月7日生まれ、静岡県出身の22歳。西奈小3年から西奈少年野球スポーツ少年団で野球を始める。常葉学園橘中では右翼手兼投手で、3年夏の全国軟式野球大会優勝。常葉学園橘では2年夏に甲子園出場。亜大では1年秋からリーグ戦に登板。3年時に大学選手権出場。1メートル80、78キロ。左投げ左打ち。
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