槙原寛己氏「初めて泣いた」10・8決戦 長嶋監督に先発託された忘れ難い15分間
2020年05月01日 05:45
野球
![槙原寛己氏「初めて泣いた」10・8決戦 長嶋監督に先発託された忘れ難い15分間](/baseball/news/2020/05/01/jpeg/20200430s00001173344000p_view.jpg)
「明日は先発だ。頼むぞ。ここまで来られたのは3人の力が大きかった。他の投手は投げさせるつもりはない。後ろに2人いる。安心して行けるところまで行ってくれ」
2人きりの、今も脳裏に刻まれる15分ほどの忘れ難い時間。初めて1対1で言葉を交わし、斎藤雅樹、桑田真澄の先発3本柱のリレーで先陣を託された。「長嶋監督は表情も口調も落ち着いていて、それを見て僕も不安感がなくなった。腹が据わって、気分がスッと楽になった」。ベッドに入ると、中日打線をどう抑えるかをシミュレーションした。「自分が投げないと試合が始まらないんだ」。緊張もなく、いつの間にか深い眠りに落ちていた。
10月8日、ナゴヤ球場での「国民的行事」。先発した槙原は1回0/3を6安打2失点(自責1)、わずか25球で降板した。中1日での登板。2点リードの2回、5番・パウエルから4連打を許した。「球場は異様な雰囲気。選手にお客さん、報道陣…。ピンと張り詰めていた」。安打は詰まった当たりなど不運なものも多かった。「でも何より(結果が)恥ずかしくて…。斎藤は内転筋を痛めていた。早い回からの登板になってしまったのが本当に申し訳なかった」。しかし、バトンは次の走者につながれた。こうなれば、槙原にできることは一つだった。
三塁側ベンチ。槙原は普段なら必ずするアイシングも行わず、ベンチの最前列に陣取った。「とにかく、“後は頼むぞ”と。自分はふがいなかったけど、次に投げる2人の投手と、野手と…。頑張ってくれ。その思いだけだった」。声の限りの必死の声援。そして、チームは勝った。槙原は知らずと大粒の涙を流していた。
「勝ったうれしさ、重圧から解放された安堵(あんど)感…。引退試合でも泣かなかったのに、野球をやっていて初めて泣いた」。前日、先発を告げてくれた長嶋監督の笑顔を見たら、再び泣けてきた。槙原の目には「国民的行事を楽しんでいるようだった」と映ったミスター。しかし胸中ではこの試合に敗れれば監督を辞任するとの決意を抱いていたと、後に知る。「そんなそぶりは全く見せなかったのに…。でも、監督も腹をくくっていたんだ、と思った」。優勝請負人としてこの年に加入し、普段は喜怒哀楽を見せない落合博満も泣いていた。それぞれの熱い思いの結晶が「10・8」だった。
「後にも先にも、あんな試合はない。歴史の一ページ。そこで先発で投げられた。選手としても成長できた。本当に思い出深い」。槙原は同じ94年5月18日の広島戦(福岡ドーム)で史上15人目の完全試合を成し遂げ、その後達成した投手はいまだにいない。通算159勝。数々の栄光の中でも、わずか25球で降板した試合こそが鮮明に記憶に残る。常人には得難い経験。それこそが、野球人・槙原寛己の誇りだ。 (敬称略)
≪国民的行事「10・8決戦」以上の緊張なし…直後の日本S大活躍MVP≫「10・8決戦」では力を発揮しきれなかった槙原氏だが、直後の西武との日本シリーズでは2試合に先発して2勝。巨人の18度目の日本一に大きく貢献し、自身はMVPに輝いた。10月23日の第2戦(東京ドーム)で4安打完封勝利。同29日の第6戦では1失点完投勝利で胴上げ投手となった。槙原氏は「10・8の経験があったから、日本シリーズは全然緊張しなかった。あれ以上のことはない、と選手として気持ちが大きく変わった」と振り返る。
▽「10・8決戦」VTR 巨人と中日がともに69勝60敗の同率首位で並び、最終戦で直接対決。勝者が優勝となる決戦を巨人・長嶋監督は「国民的行事」と称した。試合は2回、落合が中日先発・今中からソロ本塁打を放つなど巨人が2点を先制。4回には村田真、コトー、5回には松井と一発攻勢で差を広げた。投げては槙原―斎藤―桑田の先発3本柱のリレーで中日の反撃を封じ、4年ぶり27度目の優勝でミスターが宙を舞った。関東地区の平均視聴率は、プロ野球最高の48.8%を記録。
◆槙原 寛己(まきはら・ひろみ)1963年(昭38)8月11日生まれ、愛知県出身の56歳。大府では3年春のセンバツに出場。81年ドラフト1位で巨人に入団。83年に12勝を挙げて新人王を受賞した。94年5月18日の広島戦で史上15人目の完全試合を達成。通算成績は463試合で159勝128敗56セーブ、防御率3・19。オールスター出場6度。01年限りで現役を引退した。右投げ右打ち。
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