【タテジマへの道】大山悠輔編<下>2つの夢叶えた「有言実行」
2020年05月06日 15:00
野球
1年夏から「3番・遊撃」に定着。「とにかくおとなしくて存在感が薄かった。学校でもそう。猫背で全然目立たなくて。体はでかいのに教室にいてもどこにいるのか分からないくらい」(森田監督)。なのに試合になれば「常に打っていました」(同)。投手兼遊撃手で高校通算30発。2年夏の8強が最高で、3年夏は土浦三との初戦に2―4で敗れた。「悔しいというより信じられませんでした」。現実を受け入れられず、涙を流すことさえ忘れた。
プロ球団のスカウトからは注目を集める存在だった。誘いを受けていた白鴎大への進学か、プロ志望届の提出か。決断したのは9月だった。父・正美さんを加えた話し合いで森田監督から言われた。「今でも下位指名か育成なら可能性はある。でも、4年間大学で鍛えてからプロに行った方がいいんじゃないか」。入学当初からプロ志望が強く、即答できなかった。帰り道。父と2人きりの車中で突然声を上げた。
「決めた。俺は白鴎大にいって、大学JAPANに入って、絶対にプロに行くよ」
伝え聞いた森田監督は驚きを隠せなかった。「感情を表に出さないあいつがそんなこと言うなんて、よほどの決意があったんでしょうね」。悩んだ末に進んだ白鴎大で、誓いを現実のものにする。
白鴎大に進学した悠輔は1年春からリーグ戦に出場するなど、技術的には何の問題もなかったが、別の部分で一つの課題を抱えていた。当時助監督だった黒宮寿幸現監督(45)が明かす。
「声が出なくて、暗くて、大丈夫か?と思うぐらい。技術はほとんど教えてないですね。『グラブに当てたら絶対離すな』『声を出せ』とか。とにかく精神的な部分です」
才能は秀でており、将来があるからこそ「心」の部分の成長を求められ、厳しい指導が施された。4年になったあるオープン戦では想定外の“叱責”も受けた。不動の4番打者として、その試合でも途中まで4打数4安打1本塁打の活躍を見せていた。だが、同点で迎えた9回の5打席目は三振に倒れて試合が引き分けに終わると、その後のミーティングで指揮官から怒りの声が飛んできた。
「なぜあそこでホームランが打てないんだ!4本打てて5本目が打てないのはなぜだ!5打数4安打は絶対に許さない。だったら5の0で帰ってこい!」
悠輔は「言われた瞬間は正直、なんでだろう?と思いました」と戸惑いを隠せなかった。だが、言われるからには絶対に理由が存在する。「冷静になって考えると、その1本が出るか出ないかが、チームにとってどれだけ大きなことなのか。それがわかったんです」。4番打者とは…を再認識した出来事だった。以降、フェンス直撃の長打を放っても「あと2、3メートル飛ばないのはなぜなのか」など、見えない「何か」を常に追究するようになった。
そんな悠輔のターニングポイントになったのが4年春のリーグ戦。平成国際大に1勝2敗で勝ち点を落とし、チームは空き週(試合のない週)に入った。そこで黒宮監督がチームに『10日間で1万スイング』のノルマを課した。全てティー打撃という地獄の特訓だったが、同監督はその時、悠輔の目の色が変わったことに気がついた。「なにかが降臨したという感じ。鬼気迫るというか、気迫が変わった。もうこの子に教えることはないなと思いましたね」。一つの殻を破った悠輔は5月16日の上武大戦で2本塁打を放ち勝利に貢献。勝負どころで打つ、頼りになる男へ生まれ変わった。リーグ新記録の8本塁打、リーグタイ記録20打点を記録し、7月の日米大学野球の日本代表にも選出された。
入学時の目標の一つであった日本代表入り。しかも4番打者の重責も担った。結果は全5試合で計15打数2安打の打率・133、本塁打&打点はともに0。150キロ前後の球速に加え、小さく変化する球に対応しきれなかった。「自分の力のなさを感じました。もっとうまくなりたいと思わせてくれる、良い経験になりました」。悔しい思い出となったが、東京六大学や東都大学の強打者を押しのけ4番に座ったことは、その名を全国に広めるきっかけになった。
迎えた10月20日のドラフト当日。「驚きすぎて、言葉にならなかったです」という阪神からの単独1位指名。まさに「あっ」という間に二つ目の夢が実現した。小学生で野球の楽しさを知り、中学・高校で悔しさを知った。大学で栄誉をつかむと同時に未熟さも知った。さらなる成長を信じ、悠輔はまだ見ぬ“大海”に飛び込む。(2016年11月1日~2日掲載 一部編集 おわり)
◆大山 悠輔(おおやま・ゆうすけ)
1994年(平6)12月19日生まれ、茨城県出身の21歳。小1から野球を始める。つくば秀英では投手兼遊撃手で2年夏に茨城大会8強。甲子園出場経験なし。白鴎大では1年春から三塁手で出場。4年春にはリーグ新記録8本塁打を放ち、20打点で打点王。大学日本代表の4番も務めた。1メートル81、85キロ。右投げ右打ち。
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