【内田雅也の猛虎監督列伝(21)~第21代 中西太】「ベンチがアホ」にも弁解せず 六甲おろしで別れ
2020年05月11日 08:00
野球
中西はシーズン終盤の10月12日、中日戦(ナゴヤ球場)終了後、名古屋市中区のレストランで「今季限りで退団する」と突然、辞意を表明した。前日11日夜、球団社長・小津正次郎が兵庫・川西市の上田利治(スポニチ本紙評論家)の自宅に電話し監督就任を要請。後に阪急監督に復帰する上田は辞退したが、情報が中西に伝わっていた。さらに3年前、招へいに失敗した前ヤクルト監督の広岡達朗(評論家)にも食指を動かしていた。
「来季も中西監督」と公言していた小津は「和戦両様は経営者の常」と話したが、本紙・大西禧充は<指導者への愛情がない。これが阪神の伝統だ>と指摘している。
4日後の16日、中西と同郷・香川県出身のオーナー(本社社長)・田中隆造が小津に「今季の不振の責任は球団にある。助けてほしい」と伝言を託し、全面支援を約束。中西は辞意を撤回した。
留任時、中西は交換条件とも言える形で球団に要望したのが江本孟紀のトレードだった。批判精神や正義感に富み、歯に衣(きぬ)着せぬ江本の言動は生真面目な中西の心証を害していた。江本のトレードは連日のように紙面をにぎわせたが成立にはいたらなかった。
迎えた81年、4月に8連敗を喫するなどチームはバラバラだった。夏の長期ロード明けの8月26日、ヤクルト戦(甲子園)で事件は起きた。
8回表、1点を返され4―2となって1死二、三塁。すでに143球を投げ、限界にきていた。ベンチを見るが動かない。後に江本が語ったのは中西は「ピンチになるとベンチ裏に引っ込んでしまう」。この時もそうだった。三振で2死。さらに続投で水谷新太郎に様子を見たボール球を右前2点打され同点。投手交代となった。
江本はベンチにグラブを投げつけた。ロッカーへの通路で記者の「156球。よく投げた」の問いかけに「ベンチがアホやから、野球がでけへんわ!」と捨てゼリフを吐いた。グラブを壁にたたきつけ「アホや、アホ、アホ」と連呼した。
実際どうだったかについては諸説ある。江本自身が翌82年に出したベストセラー『プロ野球を10倍楽しく見る方法』(KKベストセラーズ)には<残念ながら、これはぼくの発言じゃない>と否定している。
ただ、翌27日、球団から事情聴取された際、江本は暴言を認め「ああ言った以上、責任を取る覚悟はできている」と退団する意向を示した。球団から10日間の謹慎を言い渡されると「ここで辞めさせてください」と現役を引退してしまった。
中西は91年に出した著書『人を活かす 人を育てる』(学習研究社)で<いくらマスコミが私の反論を期待しても、黙して語らずで押し通した>と記している。弁解や言い訳をしないのが<私の生き方>だった。<盛りをすぎた江本は、私の背中を踏み台にしてジャンプしなければならなかったのだと解釈している>。引退後、マスコミや政界での活躍をみていた。
「9月初めに私の気持ちを伝えた」進退には口を閉ざしていた中西は9月29日、最後の遠征(名古屋)に向かう新幹線車中で本紙の単独取材に答えた。「球団は来季への準備をしているはずだ」
広岡との交渉は「5年契約」の要求に応えられず、再び失敗していた。中西は不整脈、痛風、口腔内の腫瘍に悩まされ、巨体100キロ超の体重は10キロも減っていた。
最終成績は3位に食い込み、5年ぶりのAクラスを確保した。藤田平の首位打者は打撃人の中西への慰めになったろう。
全日程終了後の10月14日、大阪・梅田の阪神電鉄本社でオーナー・田中に辞意を伝えた。ホテル阪神での退団会見では、隣に座る田中が「断腸の思いだ。中西君にこれ以上苦労させるのは許されない。一言の弁解もなく任務を全うしてくれた」と語ると、中西は壇上で涙をこぼした。
「大したことない監督に選手たちはよくついてきてくれた」。自身は「つくる」コーチで「決断する」監督ではないと自覚していた。そして、西鉄時代の監督で義父でもある三原脩の言葉を引用し「人生は他動的。自分より周囲の情勢に身を委ねることもある」
会見後、ホテル内での納会にも顔を出し、小林繁と「六甲おろし」を歌い、別れを告げた。=敬称略=(編集委員)
おすすめテーマ
2020年05月11日のニュース
特集
野球のランキング
-
【タテジマへの道】陽川尚将編<上>すべての始まり「野球やらない?」
-
阪神・中田、38歳誕生日 ナインからの“関西風”祝福に「ビックリしました」
-
ロッテ・ドラ2佐藤 打撃フォーム見直し「自分のイメージに近づいてきた」
-
ロッテ 千葉県内イースタン公式戦4試合の球場変更 ロッテ浦和で開催
-
-
プロ野球&Jリーグ 開幕日程決定は困難 専門家チーム「再流行のリスク」指摘
-
ロッテ・藤原「ギアを入れて頑張ります」 好評質問企画に登場
-
昨季トレード加入の阪神・高野「能力を伸ばせる期間」 開幕延期プラスに
-
西武・鈴木スカウトから ドラ8岸への手紙「試合に出ている姿を想像するとワクワク」
-
【スポニチ潜入(13)】報徳学園・坂口 ドラ1候補に投げ勝った名門のエース 「圧倒的投球」へ直球強化
-
大リーグの新型コロナ抗体獲得率はわずか0・7% 獲得率1位はエンゼルスも予想外の低さ
-
虎党が選ぶ「ネクストブレーク」は…植田!「スタメンで見たい」脱・代走に期待
-
開幕後の開催案論議始まったプロ野球 「必要なときに」…その瞬間を待つ
-
【内田雅也の猛虎監督列伝(21)~第21代 中西太】「ベンチがアホ」にも弁解せず 六甲おろしで別れ
-
【球界にメッセージ】有藤通世氏 最高のプレーのため準備期間しっかり
-
東尾修氏 「6・19開幕案」投手の立場で言えば…“開幕100%”は難しい
-
有藤通世氏 64年夏1打席で奪われた甲子園 反骨心でつかんだ「ミスターロッテ」74年日本一
-
「セは東、パは西」地域集中開催案 “分割”なら「移動のリスク」大幅減
-
MLB今季開催案 開幕は7月上旬に設定 試合数半減&メジャー枠拡大&PS拡大など協議
-
巨人・菅野 母の日は毎年カーネーション贈り「“いつもありがとう”のメッセージをLINEで」
-
激似!?巨人・田口 インスタライブで得意のモノマネ4連発
-
巨人・岡本 直接言えなくても…母に「感謝しています」
-
現役最年長投手 中日・山井、来年こそ“バースデー登板”誓う 偉大な先輩2人を手本に
-
阪神選手49人、オカンへ感謝の言葉 ガルシアは日本語で「テンゴクニイル、オカアサン、アイシテル」
-
西武スカウトが新人選手へ手紙 竹下スカウトはドラ2浜屋へ「君ならできる」
-
ソフトB・松田、母に感謝「熱い男に産んでくれてありがとう」
-
ソフトB・工藤監督 マスク2万枚を寄付 医療従事者に「感謝しかありません」
-
オリ由伸&榊原インスタライブに先輩・西勇乱入「やかましい2人やな」
-
ロッテ・種市 ソフトB・千賀の質問に感激「筋トレ動画を見て試してます」
-
日本ハム・浅間 昨オフから初の一人暮らし「お母さんの大変さを身に染みて感じている」
-
広島・坂倉 ブルペンで3週間ぶり捕手「マシンでやっていたけど、人が投げるボールとは違う」
-
広島・龍馬 仕切り直しキャンプイン 逆算して「自分の形をバチッと決めて」
-
楽天 正遊撃手バトル白熱 キャプテン茂木「がむしゃらに」 ドラ1小深田「武器の足で」
-
ヤクルト・池山2軍監督 奥川が楽しみ「高卒新人とは思えない」
-
DeNA・浜口 “お勧め”きんに君トレでパワー強化中!「1年間戦い抜くため今のうちに」
-
全米女子プロ野球最後の生存者 メアリー・プラットさん死去 101歳
-
「お股ニキ」が阪神・西純をベタ褒め「普通なら世代No・1になれる素材」
-
阪神・西純 決め球スライダーは“ダル型”だった!投げ方同じ「知ってからは映像見て参考に」