元東海大四・西嶋亮太さん 魂の超スローカーブは「勝つために」“試合を動かす力”の集大成
2020年05月24日 10:08
野球
「ここで乗れば絶対に勝てる。(決まって)僕が一番びっくりした。“決まった”と」
最も警戒していた打者だからこその選択だった。だが超遅球だけでは意味がない。西嶋さんが見てほしかったのは、視線を集めた中でいかにどういう球を投げて打ち取るかだった。古沢はスライダーと外角直球で空振りを奪い、最後は中飛。続く4番・清水優心(現日本ハム)は外角直球で三振を奪った。4回の2者連続を含め、この試合で投じた超スローカーブは計4球(※1)。超がつく緩急で強力打線を幻惑した。
あの夏は、西嶋さんが1年をかけて磨いてきた“試合を動かす力”の集大成だった。駒大苫小牧に全道準決勝で延長12回0―1で惜敗した前年秋は、自分の存在をライバルに意識付けた。春以降は「2択の攻め方」にテーマを置いた。ストライクかボール、直球か変化球。一球に対し2択で考え、次に進む。それを繰り返し、自分らしい投球を追求した。迎えた夏。試合を重ね、成長を実感できたことで超スローカーブへの選択肢が生まれた。
「正直、あの球がなくても良かったかもしれない。ただ、あの試合は相手が(優勝候補の一角で)格上。勝つためには“動かす”しかないと思った」。1人の打者、1イニング、1試合。五感を研ぎ澄まし、常に考えて投げていた。九州国際大付戦は、2回1死満塁をしのぐなど序盤2イニングで41球。あのタイミングで投げることに、意味があった。
勝つための選択だったからこそ、試合後の“論争”(※2)は思いもよらなかった。心配して宿舎を訪れた父親、報道陣にも「気にしない」を貫いた。強がっていたわけでない。「チームメート、親、友達。応援してくれた人がいたから。その人たちのために頑張ろうと」。冷静だった。以前から、ネット上での批判的な言葉にも目を通し、自分を客観的に見ることを心掛けていたという。そんな中でのダルビッシュ(現カブス)の“擁護”発言。西嶋さんは「寝ようと思ったら(友達らからの)携帯が鳴りまくった」と笑う。
古沢とは、それを機に今も連絡を取り合う仲。あの一球と同時に古沢の名前が出ることに申し訳なさもあったが、「おまえのおかげでよく動画に出てくる。いい思い出だよ」の言葉に胸のつかえが下りた。今思う、あの夏。「相手をバカにしているとも言われたが、自分らしくやっていた。今でも実家に帰ると、たまに試合を見る。解説の人が“楽しくやってますね”と自分が意識していたことを言ってくれていて、思いは伝わっていたんだなと。自分を出せたし、悔いはないです」。高校野球ファンの記憶に残る究極の一球だった。(竹内 敦子)
(※1)4回先頭の古沢への初球に投げたのを皮切りに、6回2死での古沢への1、2球目、8回2死での清水への初球の計4球。全てボール。
(※2)1回戦翌日に元テレビ局アナウンサーがツイッターに否定的な発言を投稿。それをきっかけにネット上で論争に。ダルビッシュは「(超スローカーブは)自分としては一番難しい球だと思っている」とつづった。
◆西嶋 亮太(にしじま・りょうた)1996年(平8)4月10日生まれ、帯広市出身の24歳。小学1年で野球を始める。帯広六中時代はとかち帯広シニアでプレー。東海大四では1年春の札幌支部予選で背番号10で初ベンチ入りした。卒業後、社会人野球のJR北海道(現JR北海道硬式野球クラブ)に入り投手、内野手として4年プレーし、その後退社。来月から新天地で営業職として勤務する。
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