新井貴浩氏 巨人・丸を知るからこそシリーズの雑音は残念

2020年12月01日 05:30

野球

新井貴浩氏 巨人・丸を知るからこそシリーズの雑音は残念
巨人・丸 Photo By スポニチ
 【新井さんが行く!】日本シリーズを振り返る上で最初に丸について断言したい。第1戦で一塁手の中村晃と左足が接触したことについてだ。故意であるわけがない。
 2点劣勢の4回無死一、二塁。カウントは2ボール。直球一本に絞って絶対に振る、と決めていたと思う。狙ったのは右方向への進塁打。悪くても一、二塁へのゴロ、良ければ抜ける打球をイメージし、踏み込んで巻き込むように振った。コースは外角低め。しかもツーシーム気味で引っ張るには最悪の球で、当たりが薄くなった。バットが止まらなかったのは追い込まれる前に勝負したいという心理が強く働いたから。打者有利のカウントを有利にさせない千賀の凄みとも言える。

 打った瞬間に「ヤバイ」と思ったはずで、併殺を避けようと走った。肉離れの経験があって気持ちの中で少しブレーキをかけるいつもと違い、全開での全力疾走だった。一塁ベースを駆け抜ける時は左足で踏むもの。誰でも教わることだけど、何千回走っても合わない時もある。特に丸は日本シリーズに強い思い入れがあって普段以上の気持ちと力で走ったから、歩幅も変わり、結果として右足で踏んだ。そんな必死な状況で意図して蹴れるわけがない。

 丸とは広島で4年間一緒に過ごした。断じて汚い考えを持った野球人ではないし、人間性まで否定するような言説を見聞きするのは腹立たしい。翌日には当事者間で話し合って済んだこと。周りの“雑音”によって平常心で臨めなくなったとしたら残念なことだった。

 シリーズ全体を通して感じたのは甲斐の存在感だ。ムーアと組んだ第3戦では一回り目は速球で押し、二回り目はカーブを使った。その際、速球は中腰に構えて高めに要求し、一度視界から消えるカーブの軌道と組み合わせて打者の目線を狂わせた。巧みなリードで、もともと素晴らしい投手陣の力を引き出した。

 対照的に巨人は終始受け身に映った。第1戦では各打者とも千賀の低めのフォークを見極める作業に意識を向けた分、速球に差し込まれて前へ打ち返せなかった。やはりカウントによっては空振りするリスクを負って勝負しないと千賀クラスの投手は打てない。もちろん、ソフトバンクの力は抜き出ているが、力には力で挑むパ・リーグと、弱点を探して突こうとするセ・リーグの特質の違いも短期決戦で顕著に出たように思う。
 

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