【内田雅也の追球】神宮で交錯した新旧監督 監督も選手も「歴史」と「伝統」を紡ぐ大切な存在

2022年09月29日 08:00

野球

【内田雅也の追球】神宮で交錯した新旧監督 監督も選手も「歴史」と「伝統」を紡ぐ大切な存在
<ヤ・神> 矢野監督に声援をおくる神宮球場の阪神ファン(撮影・大森 寛明) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神2-1ヤクルト ( 2022年9月28日    神宮 )】 阪神にとってきょう29日は数少ない優勝記念日である。2005年9月29日、甲子園球場での巨人戦に5―1と快勝し、優勝を決めた。
 胴上げされた監督・岡田彰布は夢見心地だったろう。「最高の舞台で宿敵を相手に最高の終わり方ができた」

 大阪の下町で紙工業を営んでいた父・勇郎は阪神の有力後援者だった。幼いころから三宅秀史、藤本勝巳、村山実……らと交流があった。猛虎の魂が宿っていた。

 そんな岡田が監督として阪神に復帰する。すでに就任要請を内諾、シーズン終了後に正式発表される。この夜はラジオの解説で神宮球場放送席にいた。

 阪神ベンチでは今季限りで退く矢野燿大が指揮を執っていた。去りゆく監督と来る監督が交錯していた。複雑な空気のなか、クライマックスシリーズ(CS)進出をかけ、負けられない一戦を戦い、接戦をもぎ取った。望みをつないだ。

 岡田が前回監督を務めていた当時に聞いた話で印象に残っている言葉がある。監督としての功績について話しているとき「そんなもん」と言った。「監督なんて、長いタイガースの歴史の中の一コマでしかないんよ」

 個人ではなく、チーム、タイガースこそが大切なのだと岡田は言った。

 実は矢野も似た発言をしている。「自分はどうでもいい。タイガースに伝統を残したい」と話していた。あきらめない姿勢、積極的に攻める姿勢……を植えつけたかったのだろう。凡打でも疾走する打者たち、強打者にも向かっていった投手たち……その一端はこの夜もかいま見えた。

 試合中、少しだけ雨が降った。<空から降った雨水は樹々(きぎ)の葉に注ぎ、一滴の露は森の湿った地面に落ちて吸いこまれる。そして地下の水脈は地上に出て小さな流れをつくる。やがて渓流は川となり、平野を抜けて大河に合流する>。

 五木寛之は『大河の一滴』(幻冬舎文庫)で<大河の水の一滴が私たちの命だ>と記した。

 批評家、小林秀雄も『考えるヒント』(文春文庫)のなかで<過渡期でない歴史はない>と書いていた。今が歴史なのだと認識したい。監督も選手も、フロントもオーナーも……一人一人は小さいが、歴史と伝統を紡ぐ大切な存在である。 =敬称略=
 (編集委員)

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