過酷なキャッチャーに名誉ある「最多勝利捕手」のタイトルを!

2022年12月20日 12:16

野球

過酷なキャッチャーに名誉ある「最多勝利捕手」のタイトルを!
8月20日の広島戦8回、勝ち越し適時打を放つ代打・伊藤 Photo By スポニチ
 【君島圭介のスポーツと人間】今年8月20日の横浜スタジアム。DeNA―広島戦。同点とされた直後の8回2死一、三塁でDeNAの代打・伊藤光が中前に決勝打を放った。本拠地16連勝を引き寄せる劇打にベンチもスタンドも熱狂した。
 ところが浮かれた2万6000人の中で、ヒーローであるはずの33歳のイケメン捕手だけは塁上でこう考えていたという。

 「ちょっと待て。嶺井がベンチに下がった。次、俺キャッチャーだぞ…」

 直前の打者・嶺井が死球で、伊藤が代打を告げられると同時に代走・梶原が送られていた。勝ち越し打の興奮などすぐ吹っ飛んだ。「次の投手は?」「打者は?」。捕手としてやるべきことが頭をぐるぐる回ったという。

 実に捕手らしいエピソードだ。伊藤に限らず、勝利後にロッカー室で盛り上がる選手たちの輪に捕手が交じっていることは少ない。シャワーも浴びずに資料室で試合を振り返り、コーチやデータ班と翌日の対策に入る。

 佐々木朗の164キロ直球も千賀のお化けフォークも捕手が止めなければただの「凶器」だ。多彩な球種を持っていても一流の打者に狙い球を絞られたら簡単に打たれる。抑えれば投手の力、打たれたらリードのせい。捕手はつらい。

 捕手の評価として、盗塁阻止率、捕逸阻止力、失策数、併殺数あたりが一般的だ。だが、個人的には数値化できない「チームを勝たせる力」こそ捕手最大の能力だと思っている。今年のベストナイン捕手部門はセ・リーグがヤクルト・中村、パ・リーグがソフトバンク・甲斐だった。私も両選手に投票した。2連覇チームの正捕手・中村は当然。僅差で優勝は逃したが、130試合でマスクをかぶった甲斐の価値は高い。

 捕手の仕事=チームの勝利だと思っている。何盗塁されようと試合に勝てばいい。だからこそ「勝利捕手」を記録に残すことが重要だ。先発マスクなら5回終了時点でリードしていること。もつれた展開ならリードを維持する中継ぎ投手のホールドや抑え投手のセーブの条件を運用すればいい。今季の「最多勝利捕手」は間違いなく中村と甲斐だろう。

 8月20日のDeNA―広島戦に話は戻る。伊藤は歓喜の中で冷静だった理由を「人の人生を背負ってサインを出しているので」と明かした。9回から想定外の「抑えマスク」をかぶり、山崎を好リード。見事チームに勝利をもたらした。その瞬間、殊勲の一打を放ったときより、うれしそうな笑顔を見せてくれた。

 日本野球機構(NPB)は捕手の新タイトルを真剣に検討してほしい。西武の伊東勤、ヤクルトの古田敦也、ダイエー、ソフトバンクの城島健司・・・。黄金期のチームには必ず名捕手がいる。それは決して偶然ではないはずだ。(専門委員)

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