ボクシング界 価値下がる世界王座連続防衛…強い王者ほど“ステージアップ”
2018年06月08日 10:45
格闘技
国内最速16戦目で3階級制覇を達成したWBA世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)はこれらの要素に加え、ふさわしい対戦相手を求めて階級を上げた。スーパーフライ級では元4階級制覇王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア、帝拳)との対戦がかなわず、他団体王者には統一戦を断られ続け、明らかに実力差がある相手にKO防衛しても不満そうだった。それがバンタム級に上げた途端、統一戦が自然に実現するワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)の開催が決まったのだから、階級アップのタイミングは完璧だった。もっとも、すぐにバンタム級でも無敵になりそうだが…。
井上が7度防衛したWBOスーパーフライ級王座を返上し、田口も7度防衛中だったWBAライトフライ級王座を失ったため、最も防衛回数が多い現役日本人世界王者は3度のWBCライトフライ級王者・拳四朗(BMB)になった。ここ数年は内山高志(元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者)が11度、山中慎介(元WBC世界バンタム級王者)が12度の防衛を重ね、不滅と言われてきた具志堅用高(元WBA世界ライトフライ級王者)の日本記録「V13」に迫っていただけに、寂しい感じがする。井上はバンタム級での「V13超え」も口にしているが、敵がいなくなればさらに階級を上げざるを得なくなる。このままだと、「V13」は本当に不滅の記録になってしまうかもしれない。
実際に、現在のボクシング界で「連続防衛」の価値は下がっているように思える。内山や山中らベテランは節制に努め、適性階級だったからこそ長く防衛できたが、若い王者たちがさらに強くなろうとフィジカルを鍛えれば、減量は自然と厳しくなる。強い王者ほど同じ階級での相手探しも難しくなり、モチベーションアップには現在保持するベルトを守るよりも、ビッグネームとの対戦や複数階級制覇、統一戦、海外進出など実力をぶつけるための「ステージアップ」が必要となってくる。そして、試合のたびにチケットを大量にさばける山中のような例を除けば、国内で防衛を重ねていても大金を稼ぐチャンスは訪れない。「具志堅のV13」は確かに素晴らしい記録だが、王者たちの限りあるボクシング人生を考えると、過剰に神聖視すべきではないと思えるのも事実だ。(専門委員・中出 健太郎)