前WBO世界王者・山中竜也引退…愛すべき庶民派チャンピオンは至高のテクニシャンだった

2018年09月01日 12:50

格闘技

前WBO世界王者・山中竜也引退…愛すべき庶民派チャンピオンは至高のテクニシャンだった
7月13日、2度目の防衛戦の会場に自転車で来場した山中竜也 Photo By スポニチ
 愛すべき庶民派チャンピオンだった。8月31日に引退会見をした前WBO世界ミニマム級王者・山中竜也(23=真正)のことだ。自分への勝利のご褒美は、コンビニのスイーツ。V2戦は、「近所だから」と言って自宅から試合会場まで自転車、それもママチャリでやってきた。かつて、時給850円のカツ丼店で生活費を稼いだ中卒たたき上げのボクサーは、ベルトを巻いても着飾ることをしなかった。
 王者らしからぬ、自己評価の低さにも驚いた。デビュー以来、一貫していた姿勢がある。「いつも相手のことがめっちゃ強いと思ってます。不安になりますよ」。ボクサーは、嘘でも相手を上から見下そうとするものだ。ところが、その真逆。謙虚に、自分が弱いと思うからこそ「対策が立てられる」と戦うごとに強くなった。

 印象的な試合は、3月の初防衛のカジェロス戦。完璧なディフェンスで封じ、戦意喪失によるTKO勝ちを奪った。ほとんど打たれなかったこの試合は、国際的にも評価されたと聞く。ベルトを失った2度目の防衛戦、7月のサルダール戦だって、ポイントは劣勢だったとはいえ、緩急を付けたパンチ、フェイントの連続、狙いを絞らせない守りでテクニシャンぶりを見せていた。

 だが、一発で全てが狂った。たらればは許されないが、7回にダウンを喫したあの右のロングさえもらわなければ…。守備巧者なら、大流血するほどパンチはもらわなかったはずだ。ベルトはもちろん、この試合後に急性硬膜下血腫の診断を受け、日本ボクシングコミッション規定で引退を余儀なくされることはなかったと信じている。

 6人きょうだいの一番上。実家はマンションの7階だった。母・理恵さんと7人で住むのには手狭だった。「母に家を建ててあげること」を目標にしてリングに上がった孝行息子。打ったらもういない、あの高度なテクニックが見られないのが残念でならない。(倉世古 洋平)

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