前WBO世界王者・山中竜也引退…愛すべき庶民派チャンピオンは至高のテクニシャンだった
2018年09月01日 12:50
格闘技
印象的な試合は、3月の初防衛のカジェロス戦。完璧なディフェンスで封じ、戦意喪失によるTKO勝ちを奪った。ほとんど打たれなかったこの試合は、国際的にも評価されたと聞く。ベルトを失った2度目の防衛戦、7月のサルダール戦だって、ポイントは劣勢だったとはいえ、緩急を付けたパンチ、フェイントの連続、狙いを絞らせない守りでテクニシャンぶりを見せていた。
だが、一発で全てが狂った。たらればは許されないが、7回にダウンを喫したあの右のロングさえもらわなければ…。守備巧者なら、大流血するほどパンチはもらわなかったはずだ。ベルトはもちろん、この試合後に急性硬膜下血腫の診断を受け、日本ボクシングコミッション規定で引退を余儀なくされることはなかったと信じている。
6人きょうだいの一番上。実家はマンションの7階だった。母・理恵さんと7人で住むのには手狭だった。「母に家を建ててあげること」を目標にしてリングに上がった孝行息子。打ったらもういない、あの高度なテクニックが見られないのが残念でならない。(倉世古 洋平)