安井順平 「ブギウギ」で3回目の朝ドラ出演 「相手を光らせ自分も光る」
2023年10月19日 09:00
芸能
「今回は長く出演させてもらえるのでうれしかったです。じっくりとキャラクター造形ができそうでワクワクしました」
──脚本を読んだ感想は?
「難しい役だと思いました。辛島部長はキャストのブッキングや予算を考えたりするプロデューサー的立場の人で、作曲家の羽鳥先生(草なぎ剛)、演出家の松永さん(新納慎也)のわがままに振り回されます。基本、受け身の姿勢なのですが、一方で、スズ子に対しては褒めたり怒鳴ったりする場面もあります。情緒の整合性が取りづらいところもありましたが、むしろ、やりがいがありました」
──ご自身の起用理由についてはどんな説明を受けましたか?
「辛島部長の周りにはキャラクターの濃い人がたくさんいます。その人たちの天真らんまんな感じを受けながら自分の個性を出さなくちゃいけない。普通は受けの芝居をすると埋もれてしまいます。だけど、辛島部長は相手を光らせ、自分も光らなくちゃいけない。プロデューサーさんからは『安井さんならできると思った』と言われました。自分のことを個性が強いとは思わないのですが、持ち上げられていい気持ちになりながら演じました」
──「中間管理職」の役柄ですが、どのように演じましたか?
「まずはテンプレ(紋切り型)を表現しようと思いました。あたふたしている。てんやわんやしている。基本的には長いものに巻かれる。頼りなさが基本です。だけど、それだけじゃない。中間管理職という立場は結構、ストイックに決めなくちゃいけない局面がある。今回、辛島部長を演じるに当たって中間管理職について調べましたが、コミュニケーション力、リーダーシップ力、人材育成力、課題解決力が必要だということを知りました。だから、決める時にはちゃんと決める感じや芯の強さをどこかで醸し出さなくちゃいけないと思いました。そこがいちばん苦労しました」
──辛島部長は中間管理職として板挟みになりますね?
「面白かったです。受けの芝居をここまでやることはあまりないんです。例えば、感じの悪い男の役を演じる時、感じの悪さは自分から醸し出しますが、今回は羽鳥先生や松永さんがとんでもないことを言うたびにリアクションします。僕は受けの芝居が好きなので、至る所でリアクションできるのは気持ち良かったです」
──劇中の七三分けの髪形については?
「あの時代の日本人の典型的なヘアスタイルですね。僕はよく『昭和顔』と言われますが、『ザ・ニホンジン』を演じている感じ。もともと自分の顔が好きじゃないので、どんな髪形でも好きになれません(笑)」
──以前に出演した朝ドラの「半分、青い」「ちむどんどん」の収録で、今でも覚えていることはありますか?
「『半分、青い』は緊張したのを覚えています。本番の時、スタジオで『ブー』とブザーが鳴るのを初めて経験して、それで緊張したんです。こんな舞台の開演を告げるブザーみたいな音がスタジオに広がるのか…と思いました。覚えたセリフを吐き出すだけで、あっという間に終わってしまいました。『ちむどんどん』はユーモアのあるキャラクターで、事前にどうしようかと考える余裕が少しありました」
──役者業のスタートは舞台でしたが、映像作品はどうですか?
「苦手でした。舞台はお客さんが空気を作ってくれます。でも、映像にはそれがない。全て自分たちで作らなくちゃいけない。瞬発力も求められます。順番に撮らないことも多いので、切り替えの難しさもあります。僕はセリフ覚えが悪いので、短い時間でセリフを覚えるのにも苦労しています」
──映像作品に手応えを感じたきっかけは?
「きっかけはないです(笑)。慣れだと思います。『海月姫』(2018年のフジテレビ系のドラマ)や『極主夫道』(20年の日本テレビ系のドラマ)にレギュラー出演して緊張しなくなった部分はあります。『エルピス』(22年のフジテレビ系のドラマ)はあんなに反響があるとは思いませんでした。収録の時期が舞台と重なっていて、脚本9ページに及ぶ長回しのシーンのセリフを覚えるのは地獄でしたが、あれから名前を認識してもらえるようになったかもしれません」
──役者としての目標は?
「主役をやりたいという願望はありません!(笑)長く続けたいです」
──最後に「ブギウギ」と辛島部長の見どころをお願いします。
「明るくなれる作品、全員にエールを送るような作品です。辛島部長はとても人間的な役です。輝かしい場所にいる人ではなく、世間体を気にしながら仕事を全うしようとします。きたないところ、ずるいところもあります。だから、人間っぽい。日本人の鏡のようなところがあります。みなさんに共感していただけると思います」
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。