馬怪談で万馬券当たる?美浦近郊の大杉神社 椎の木にぶらさがる馬頭は「あがり」の妖
2020年08月25日 05:30
競馬
【夏競馬の自由研究 】
古木に浮かぶ馬の頭、夜の四つつじを蹄音も立てずに徘徊（はいかい）する首なし馬…。厳しい残暑が続く晩夏の「自由研究」では納涼代わりに馬の怪奇談をお届けする。神の手に導かれたように万馬券が当たるご利益で知られるのが「安馬（あんば）さま」こと、美浦トレセン近郊の勝馬神社（大杉神社内）。茨城県屈指のパワースポットを訪ねると、馬の形をした妖（あやかし）が…。
椎（しい）の古木に覆われた薄暗い祠（ほこら）に手を合わせていると、風もないのに葉のこすれ合う音が頭上から聞こえてくる。静寂を破る蹄音のような4拍子の葉音。椎の古木を見上げると…。幹の先が馬頭の形をつくっていた。「この馬頭さんを見た者には吉事があるよ。祠の脇に飾られた絵馬を見てごらん。けけけっ…」。背中から聞こえてくる笑い声に慌てて振り返ると、「土地の者」という古老が立っていた。
美浦トレセンから東南へ10キロ、疫病封じの守り神として知られる大杉神社（茨城県稲敷市）の一角にたたずむ勝馬神社。椎の木に覆われた「安馬さま」と呼ばれる祠の中をのぞくと、馬像の手綱を石造りの猿が引いている。古来、厩神（うまやがみ＝馬の守り神）として信仰されてきた駒止めの猿。祠の脇には馬頭さんのご利益で万馬券を的中したお礼の絵馬が奉納されていた。鯛（たい）も鮃（ひらめ）も食うた者が知るというが、こちらもこの馬頭さんを初めて拝んだ3年前に大穴を連発した記憶がある。
馬の怪奇談は全国各地に残されている。老馬を殺して食べてしまった長者が馬の霊気に腹の中を荒らされてもだえ死にする「塩の長者」は石川県に伝わる怪談。馬の背に鎌を打ち込んで殺傷した男が、やがて馬に取り憑（つ）かれたように馬房の中でいななき、水おけごと水を飲んで死ぬ「馬憑き」は愛知県三河地方の怪異談。馬怪談の大半は虐待された馬が怨霊になって人間に仕返しする筋立てだ。岡山県瀬戸内市、熊本県玉名郡で言い伝えられているのが妖怪「さがり」。榎（えのき）や柿の大木に馬の頭がぶら下がり、目撃した者は原因不明の熱病にかかったという。だが、勝馬神社の椎の古木がつくる馬の頭は熱の代わりに運気を上げ、金運を招く。「さがり」どころか、「あがり」の妖である。万券的中などの吉事をもたらすいわくがあった。
「この神社は馬櫪社（ばれきしゃ＝馬を守護する神社）と呼ばれ、かつて祠は美浦の馬牧（官営育成牧場）に祭られていたんです。馬牧が消滅したためその祠が（鎌倉時代に）当地へ移されました。平成14年には石祠から社殿を建立してお祭りしております」と宮司は説明する。1000年以上も馬の神を祭る一方、戦前には境内奥の馬場で村競馬も開き、馬を保護してきた。「塩の長者」や「馬憑き」が馬の意趣返しなら、椎の古木に宿る馬頭さんの精霊は馬の恩返しかもしれない。「いつから馬頭の形になったものか…。そもそも、この椎の木は樹齢さえ不明です。切り株に種が落ちて、いくつもの木が重なっているのです」。宮司の話を聞いていると、風もないのに葉のこすれ合う音が頭上から聞こえてきた。「けけけっ…」。背中から再び奇妙な笑い声。振り返ると…。
≪まだまだいる…日本各地で恐ろしい6つの妖怪≫
◇馬の首 大分県臼杵、竹田、国東の各市に伝わる怪談。合戦の最中、飼い主の遺書を家に届けた馬が飼い主を見捨てたとみなされて家人に首をはねられた。その後、家の周囲にはいななきや蹄音と共に首が徘徊するようになったという。
◇首切れ馬 本州や四国の各地に伝わる首のない妖怪。「首なし馬」とも呼ばれる。徳島県祖谷山では節分の夜、四つつじを徘徊するという。
◇馬鬼 愛媛県喜多郡に伝わる2間（約3メートル60）もの巨大な妖怪。当地の城主が乗っていた白馬とともに谷底に転落死した。事故後、夕刻になると、周辺には馬のいななきと鈴の音が聞こえ、やがて馬の霊が2間の大きさになって姿を見せたという。
◇馬の足 福岡県久留米市、山口県岩国市に残る民間伝承。夜になると、垣根や塀越しに伸びた木の枝に馬の脚がぶら下がり、通行人を蹴飛ばしたという。
◇馬づら 昭和の時代に創作された、馬の頭と人の体を持つ妖怪。夏に開け放したままの家の扉から屋内に侵入し、寝ている者に息を吹きかける。その息を吸うと、毒気に当てられて体調を崩すという。
◇馬のたたり 琉球王国の民話集「遺老説伝」に記された怪談。飼っていた牡馬を食べようと、おのを振り下ろした具志川・宇堅村（沖縄本島中部）の住民一族が間もなくそろって病死した。それ以後、宇堅村の牡馬も全て死んでしまい、同村では牡馬を飼わなくなったという。馬食が禁じられていた近世琉球の時代性が投影された怪異談。
美浦トレセンから東南へ10キロ、疫病封じの守り神として知られる大杉神社（茨城県稲敷市）の一角にたたずむ勝馬神社。椎の木に覆われた「安馬さま」と呼ばれる祠の中をのぞくと、馬像の手綱を石造りの猿が引いている。古来、厩神（うまやがみ＝馬の守り神）として信仰されてきた駒止めの猿。祠の脇には馬頭さんのご利益で万馬券を的中したお礼の絵馬が奉納されていた。鯛（たい）も鮃（ひらめ）も食うた者が知るというが、こちらもこの馬頭さんを初めて拝んだ3年前に大穴を連発した記憶がある。
馬の怪奇談は全国各地に残されている。老馬を殺して食べてしまった長者が馬の霊気に腹の中を荒らされてもだえ死にする「塩の長者」は石川県に伝わる怪談。馬の背に鎌を打ち込んで殺傷した男が、やがて馬に取り憑（つ）かれたように馬房の中でいななき、水おけごと水を飲んで死ぬ「馬憑き」は愛知県三河地方の怪異談。馬怪談の大半は虐待された馬が怨霊になって人間に仕返しする筋立てだ。岡山県瀬戸内市、熊本県玉名郡で言い伝えられているのが妖怪「さがり」。榎（えのき）や柿の大木に馬の頭がぶら下がり、目撃した者は原因不明の熱病にかかったという。だが、勝馬神社の椎の古木がつくる馬の頭は熱の代わりに運気を上げ、金運を招く。「さがり」どころか、「あがり」の妖である。万券的中などの吉事をもたらすいわくがあった。
「この神社は馬櫪社（ばれきしゃ＝馬を守護する神社）と呼ばれ、かつて祠は美浦の馬牧（官営育成牧場）に祭られていたんです。馬牧が消滅したためその祠が（鎌倉時代に）当地へ移されました。平成14年には石祠から社殿を建立してお祭りしております」と宮司は説明する。1000年以上も馬の神を祭る一方、戦前には境内奥の馬場で村競馬も開き、馬を保護してきた。「塩の長者」や「馬憑き」が馬の意趣返しなら、椎の古木に宿る馬頭さんの精霊は馬の恩返しかもしれない。「いつから馬頭の形になったものか…。そもそも、この椎の木は樹齢さえ不明です。切り株に種が落ちて、いくつもの木が重なっているのです」。宮司の話を聞いていると、風もないのに葉のこすれ合う音が頭上から聞こえてきた。「けけけっ…」。背中から再び奇妙な笑い声。振り返ると…。
≪まだまだいる…日本各地で恐ろしい6つの妖怪≫
◇馬の首 大分県臼杵、竹田、国東の各市に伝わる怪談。合戦の最中、飼い主の遺書を家に届けた馬が飼い主を見捨てたとみなされて家人に首をはねられた。その後、家の周囲にはいななきや蹄音と共に首が徘徊するようになったという。
◇首切れ馬 本州や四国の各地に伝わる首のない妖怪。「首なし馬」とも呼ばれる。徳島県祖谷山では節分の夜、四つつじを徘徊するという。
◇馬鬼 愛媛県喜多郡に伝わる2間（約3メートル60）もの巨大な妖怪。当地の城主が乗っていた白馬とともに谷底に転落死した。事故後、夕刻になると、周辺には馬のいななきと鈴の音が聞こえ、やがて馬の霊が2間の大きさになって姿を見せたという。
◇馬の足 福岡県久留米市、山口県岩国市に残る民間伝承。夜になると、垣根や塀越しに伸びた木の枝に馬の脚がぶら下がり、通行人を蹴飛ばしたという。
◇馬づら 昭和の時代に創作された、馬の頭と人の体を持つ妖怪。夏に開け放したままの家の扉から屋内に侵入し、寝ている者に息を吹きかける。その息を吸うと、毒気に当てられて体調を崩すという。
◇馬のたたり 琉球王国の民話集「遺老説伝」に記された怪談。飼っていた牡馬を食べようと、おのを振り下ろした具志川・宇堅村（沖縄本島中部）の住民一族が間もなくそろって病死した。それ以後、宇堅村の牡馬も全て死んでしまい、同村では牡馬を飼わなくなったという。馬食が禁じられていた近世琉球の時代性が投影された怪異談。
