「負け方が大切」根本師が伝え続ける“騎手のあり方”とは

2024年05月09日 10:30

競馬

「負け方が大切」根本師が伝え続ける“騎手のあり方”とは
ベルクカッツェでJRAのG1騎乗が可能となる31勝目を挙げ笑顔を見せる藤田菜七子騎手と根本師 Photo By スポニチ
 日々トレセンや競馬場など現場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は美浦取材班の高木翔平(34)が担当する。現在ルーキー最多勝の長浜鴻緒(こお)を含む4人の弟子を抱える根本康広師(68)に“騎手教育論”を聞いた。
 現在、根本厩舎には丸山元気、野中悠太郎、藤田菜七子、そしてルーキーとして最多5勝(9日現在)をマークする長浜鴻緒の4人が所属している。騎手としてダービー、中山大障害という平地&障害の最高峰のレースを手にした師。定年引退まで残り2年を切ったが、常に愛弟子たちの成長を願っている。「所属の騎手が多いとは言われますけど、私が現役の頃は当たり前でしたからね。最初にゴールを駆け抜ける瞬間は騎手にしか分からない喜び。少しでも背中を押してあげられたらと思っています」

 師がこれまで受け持った弟子は計6人。それぞれの個性、そして時代に合った接し方を模索してきた。「やっぱり最初の弟子と鴻緒への接し方は違いますよ。今の時代、こちらの考えを一方的に押しつけるのは良くない」。根本師が若手の頃、当時の師匠・橋本輝雄師に言われた言葉が忘れられないと言う。「“根本、おまえご飯はどこで食べるんだ?”と聞いてくるんですね。“口です!”と答えると、“口は真ん中にあるな”とだけ言うんです。つまり右手でも左手でも食べられないといけない、右でも左でもムチを使えなきゃいけないということです。今の子にはそれだけでは伝わらないけど、自分で考えさせるためにいろいろと考えます」。わずかなヒントから自身で思考させ、自分なりの正解へと導く。半世紀前の経験をブラッシュアップし、今に生かしている。

 取材中、長浜が調教から戻ってくるとすぐに反省会が始まった。長浜のレースは他厩舎の馬に騎乗したものも全てチェック。定年まで残された時間が少ないため、先輩3人よりも急ピッチで騎手としての在り方を伝えているという。「騎手は負け方が大切なんです。100回乗ったら99回負けることもあるのが競馬。その時にどういう立ち振る舞いをするか周りは見ている。“次も任せたい”と思わせる行動をしてほしい」。期待のルーキーは真剣な表情で耳を傾けていた。

 昔と比べてオーナー、牧場サイドの権限が強まり、鞍上決定のパワーバランスは変化。騎乗数を確保しにくいという理由などで、新人騎手の引き取り厩舎は見つかりにくい現状にある。その中で積極的に新人を預かり、成長の手助けを惜しまない根本師。「自分が師匠にやってもらったようにダービー馬(87年メリーナイス)をあてがうことができないのは申し訳ない。それでも、少しでも騎手として一人前になってもらいたい。亡くなった妻には“あなたは競馬学校の教官が似合うよ”と言われていました」と笑った。半世紀以上の時を超えて受け継がれる騎手論は、競馬界にとっても大きな財産だろう。

おすすめテーマ

2024年05月09日のニュース

特集

ギャンブルのランキング

【楽天】オススメアイテム