金子達仁氏 こんな「なでしこ」は、初めて見た
2012年07月29日 10:33
サッカー
【金子達仁 五輪戦記】こんななでしこは、初めて見た。少なくとも、ここ10年以上は見たことのない試合だった。
日本女子代表がなでしこという愛称で呼ばれるようになるはるか以前から、沢はチームの中心であり続けてきた――プレーの面でも、メンタルの面でも。そして、信じられないほどの高い確率で、彼女は周囲の期待に応え続けてきた。ブラジル人にとってのペレ、オランダ人にとってのクライフ、アルゼンチン人にとってのマラドーナ。それがなでしこにとっての沢、日本人にとっての沢だった。
ロンドンに旅立つ直前に行われたオーストラリアの壮行試合でも、沢の存在感は際立っていた。そして、彼女がベンチに下がった途端、試合のクオリティーは著しく落ちた。わたしは、不安を覚えずにはいられなかった。
沢ほどの選手に代わりなどきくはずはない。ただ、沢とて超人ではない。コンディションの不安も残る。万が一のことが起こった場合、なでしこはどうなってしまうのか――。
おそらく、同様の不安は佐々木監督も抱いていたことだろう。そして、スウェーデン戦を終えたいま、その不安が大幅に軽減された気分になっているのではないか。
沢が交代するまでのなでしこは、初戦のカナダ戦よりはずいぶんと良くなっていたものの、ベストに比べればまだまだ、といった出来だった。それだけに、後半の途中で沢をベンチに下げるのは佐々木監督にとっても勇気のいる決断だったはずだが、代わりに入った田中は、試合の質を落とすどころか、日本の勢いに拍車をかけてみせた。沢にもできなかったことを、この日の田中はやってのけたのである。
もちろん、今後もなでしこにとって沢が重要な存在であり続けることは間違いない。それでも、沢がいなくなったらおしまいといった感さえあったほんの数週間前のチームは、この日、新しい階段を一段上った。
沢がいなくても、やれる――。
この引き分けで日本の勝ち点は4。決勝トーナメント進出はほぼ決まったといっていい。だが、準々決勝で当たるのがどこのチームになるにせよ、重要になってくるのは1次リーグ最終戦の南アフリカ戦ではないか。
この試合で、アタッカーが点を取れるかどうか。
カナダ戦の得点者は川澄と宮間だった。この試合はスコアレスだった。つまり、前線で素晴らしく迫力のあるプレーをしている大儀見には、まだゴールがない。逆にいえば、南アフリカ戦で彼女にゴールが生まれれば、日本の勢いはさらに加速することが考えられる。単に勝つだけでなく、誰が点をとって勝つか。それが次の試合でのカギとなる。(スポーツライター)
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