錦織96年ぶり「重かった」メダル 嫌なムード断ち切った日の丸への思い
2016年08月16日 05:30
テニス
![錦織96年ぶり「重かった」メダル 嫌なムード断ち切った日の丸への思い](/olympic/news/2016/08/16/jpeg/G20160816013175180_view.jpg)
ついに歴史の扉をこじ開けた。リオデジャネイロ五輪テニス男子シングルスの3位決定戦が14日行われ、世界ランキング7位で第4シードの錦織圭(26=日清食品)は同5位で第3シードのラファエル・ナダル(30=スペイン)を6―2、6―7、6―3で破り、銅メダルを獲得した。日本勢では、1920年アントワープ大会で熊谷一弥が男子シングルスで銀、熊谷が柏尾誠一郎と組んだ同ダブルスで銀メダルを獲得して以来、96年ぶりのメダル獲得となった。日本が誇るトップアスリートが、五輪の歴史にも名を刻んだ。
リオに到着した日、空港で錦織は言っていた。「そこまで出し切りすぎないように意識したい」。だが終わってみれば死力を尽くした9日間だった。胸に輝く銅メダルを手に「想像以上に出し過ぎちゃいましたね」と屈託なく笑った。
普段のツアーや4大大会と異なり、リオ五輪のテニスにはランキングポイントはない。賞金もない。しかもマスターズ大会や全米オープンに挟まれた過密日程。見返りは多くない。だからこそ錦織も“ほどほど”にするつもりだった。
ところが五輪の空気を吸い込むと考えが変わっていった。「他競技の人を見て感化された」。ラグビー、体操、バドミントン、卓球など4年に1度の舞台に挑む日本選手の姿をテレビで観察した。メダルマッチの重圧の対処、日の丸の重み。「いろんなものを吸収した気がする。凄く有意義で得たものは大きかった」
ボールボーイの手際や観客のマナー、「シャワーも冷水で修行僧みたいになる」という設備も含め、大会としては不自由さを覚えることは多かった。問題山積の選手村では、宿舎の水道管が破裂して夜中に屋外退避も経験。「シャワーが凄く強くなってそれが凄くうれしい」「僕の部屋は一回もトイレが詰まらなかった」。世界アスリート長者番付に載る選手が、そんなことにささやかな喜びを覚える日々だった。
準決勝でA・マリー(英国)に打ちひしがれるほどの完敗を喫した翌日に、今度はナダルと3位決定戦に臨む。こんな状況も負けたら終わりのツアーではあり得ないことだ。前夜は代表チームで食事をし、ナダル対策を確認。チームの支えはしぼみかけた気持ちを必死にもり立ててくれた。
動きの重いナダルに対しては序盤から攻勢に出た。第1セットを先取し、第2セットも5―2とリード。バックハンドのストレートが好調で、要所ではサーブでピンチをしのいだ。ところが、勝利を目前にして突如乱れた。4ゲームを連取され、タイブレークで落とした。メダルの価値を知るからこそ硬くなった。
4大大会優勝14回を誇る王者の猛反撃。錦織は「これを乗り越えれば自分の力になる」と信じて立ち向かった。もう一度前に踏み込み、打っていった。最終セットは第4ゲームでブレーク。ポイントのたびにチーム全員が立ち上がり、錦織はガッツポーズで応えた。
「いろんな思いが駆け巡った。重かった」。表彰式でメダルを受け取った時、以前と違う意識の芽生えに気づいた。「今週、試合をやりながら気持ちが変わっていった。正直楽しみですね、4年後が。今までにない感情が出てきた」。小学2年生の文集には、夢の欄に「テニスでオリンピックにでて金メダルをとるゆめ」と書いた。それから20年。4年後の東京で、金メダルが錦織の本物の夢になった。
◆錦織 圭(にしこり・けい)1989年(平元)12月29日、島根県生まれの26歳。5歳からテニスを始め03年に米国へテニス留学。07年10月にプロ転向し、08年2月のデルレービーチ国際選手権でツアー初優勝を果たした。14年の全米オープンでは準優勝。14年5月に世界ランキング9位となり現行制度で日本男子初のトップ10入りを果たした。自己最高位は4位。ツアー通算11勝、生涯獲得賞金は約1390万ドル(約14億円)。1メートル78、75キロ。
▽五輪でのテニス競技 近代五輪の最初の大会となった1896年アテネ大会で実施された。男子の単複2種目の実施で、シングルス出場者は7カ国15人。1924年のパリ大会を最後に五輪とたもとを分かった。それが五輪のプロ解禁の歩みと合わせて、84年ロサンゼルス大会で公開競技、88年ソウル大会で正式競技に復帰した。当初は男子トップ選手の欠場も目立ったが、00年シドニー大会から前回ロンドン大会までは世界ランキングのポイントが導入され、徐々に定着した。リオ大会はポイント対象ではなくなった。
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