アスリート夫婦が立ち向かう人生最大の難関 日本ならどうする?

2016年09月08日 10:20

バスケット

アスリート夫婦が立ち向かう人生最大の難関 日本ならどうする?
ペリカンズのジュルー・ホリデー(AP)
 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】ローレン・ホリデー(28)はサッカーの元女子米国代表MF。2008年北京五輪、12年ロンドン五輪、そして15年W杯(カナダ)で米国の優勝に貢献して昨年に現役を退いた。夫はUCLA時代に知り合ったNBAペリカンズのジュルー・ホリデー(26)で、2人の間には10月中旬に第1子が誕生することになっている。
 しかし妊娠を知った段階で大きな壁に突き当たった。体のしびれを訴えていたローレンの右前頭部に良性ながら腫瘍が発見されたのだ。一刻も早い手術が必要。しかも胎児への影響は回避しなくてはいけない。そして彼女は出産を優先させ、脳腫瘍の手術は出産から6週間後に受けることにした。

 夫のジュルーは昨季平均16・8得点、6・0アシストをマークしているNBAトップクラスのポイントガード。しかし故障が多く、それが米国代表入りを阻む原因にもなっていた。ただし今オフは万全の状態。本来ならばペリカンズの地元ルイジアナ州ニューオーリンズで調整を続けて10月のキャンプインを迎えるはずだった。

 そのシナリオは妻の容体を知って書き換えを余儀なくさせられる。ローレンが入院しているのはニューオーリンズから1370キロも離れたノースカロライナ州ダーラムにあるデューク大の大学病院。すでにローレンのための専門チームがスタンバイしている。それでも「1人では不安だろう」とジュルーは判断。生活の場をニューオーリンズからダーラムに移す決断をした。NBAの開幕は10月末。妻の出産と手術が順調にいっても夫が戦列に復帰するのは年明けになりそうだ。

 さてペリカンズの首脳はどう感じたのか?なにせ1129万ドル(約11億7000万円)というチームで2番目に高いサラリーを支払っている身。コスパを考えると「開幕にはチームにいてほしい」というのが本音だと思う。しかしAP通信の取材に対し、デル・デンプスGMは「我々の願いは彼女が無事に出産することと手術が成功すること。だから2人のプライバシーを大切にしてほしい」と今後予想されるメディアの取材攻勢に釘を刺し、チームにふりかかってくる負の側面には言及しなかった。

 ペリカンズのバックコート陣の層は厚いとは言えない。ジュルーがレギュラーシーズン全82試合に出ないとプレーオフ進出の可能性は限りなく薄いだろう。しかしこの一件に関して、ペリカンズは全面支援を約束。個人練習しかできなくなるジュルーのためにトレーナーを送りこむことも表明した。

 さて同じことがもし日本で起こると、選手とチーム側はどうするのだろう?医療優先であることには間違いないだろうが、支援の“幅”は限られるだろう。選手もチーム事情を気にして戦列を離れないかもしれない。

 ホリデー夫妻に見る命への接し方の違い。プライバシーを守りつつ、ジュルーがコートに復帰するまでしっかり見守っていきたい。(専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

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