すべて自費でまかなわざるをえないパラリンピック選手たちの実情

2016年09月08日 10:00

五輪

すべて自費でまかなわざるをえないパラリンピック選手たちの実情
<リオパラリンピック・開会式>旗手の上地(中央下)を先頭に行進するリオパラリンピック日本代表選手ら
 【藤山健二の独立独歩】リオデジャネイロ・パラリンピックで、日本は「金10個とメダル総数40個」という高い目標を掲げている。いきなりお金の話で恐縮だが、「金メダル12個を含む41個」のメダルを獲得した先の五輪選手団に支払われた日本オリンピック委員会(JOC)からの報奨金は、金500万円、銀200万円、銅100万円の規定に基づき総額1億4600万円に達した。では、もしパラ選手団が今回の目標をクリアするといくらもらえるかと言えば、わずか約4000万円(金10、銀15、銅15として試算)にすぎない。日本障がい者スポーツ協会が用意している報奨金は金150万円、銀100万円、銅70万円に設定されているからだ。
 この違いは支払い母体の資金力の差であって、報奨金制度を根本的に変えない限り、同額にすることは難しい。だが、本当に資金的な援助を必要としているのはパラリンピックの選手たちであるということを強調するためにも、選手たちが置かれている現状をいくつか紹介してみたい。

 障がい者がスポーツをする上で不可欠な補助用具、競技用車いすや義手、義足は個人に合わせてオーダーメードで作られるために値段が高い。たとえば陸上短距離、跳躍の高桑早生(24)が左足に着用している下肢義足は本人によれば「90万円ちょっと」という。もちろん、普段用と競技用に最低でも2足はいるし、競技用は頻繁にメンテナンスも必要なので実際にはもっとかかる。車いすも同様で、ほとんどの選手が自費でまかなっているのが実情だ。

 合宿や遠征にももちろん金がかかるが、五輪選手のように潤沢な支援はない。日本パラリンピアンズ協会が先月公開した代表選手たちの「競技環境調査」によれば、合宿や遠征などで1年間に自己負担した額は平均で1人147万円にも上っている。逆に言えば、それだけの自己資金がなければ競技を続けたくてもできないということだ。卓球に出場する吉田信一(50)は貯金を使い果たすと競技生活を中断して働き、少し貯まるとまた復帰、中断を繰り返してきた。「国内の5倍の経験ができる」という海外に行きたくても資金も時間もなく、見るに見かねた勤務先が海外遠征を仕事上の出張扱いにしてくれたおかげで今回初めてパラリンピックに出場することができた。似たような環境に置かれた選手は他にも大勢いる。

 さらに言えば、21・6%の選手が障がいを理由に施設の利用を断られたことがあるという。障がい者スポーツの普及、振興が遅れているのは、これまでほとんど報じてこなかった我々マスメディアにも責任がある。その反省の上に立ち、少しでもパラリンピックを目指す選手たちの実情を正確に伝えられるように、これからも取材を続けていきたい。(編集委員)

 ◆藤山 健二(ふじやま・けんじ)1960年、埼玉県生まれ。早大卒。スポーツ記者歴34年。五輪取材は夏冬合わせて7度、世界陸上やゴルフのマスターズ、全英オープンなど、ほとんどの競技を網羅。ミステリー大好きで、趣味が高じて「富士山の身代金」(95年刊)など自分で執筆も。

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