NBAウエストブルックのトリプルダブルの“偉業”は本当に価値があるのか?
2017年04月15日 09:20
バスケット
ただしロバートソンが活躍した60年代は世相同様、NBAも現在とは様子が違っていた。まずそもそもトリプルダブルの概念はない。ジョンソンの登場があって過去にさかのぼって調べていた時に発掘されたのがロバートソンの大記録。NBA2季目の61年シーズンは30・8得点、12・5リバウンド、11・4アシストという成績だった。さらに彼の場合、アシストかリバウンドだけが9つ以上というシーズンが61年以外に計4回。もしそれが名誉ある記録だと知っていたら対応は違っていただろう。ウエストブルックの場合、メディアが注目してファンが騒ぐ中で数を増やしていったので同じジャンルでありながら比較は難しいかもしれない。
しかもロバートソンは米国で公民権法(1964年)が成立する前にプロのキャリアをスタートさせている。人種差別が色濃く残る時代。当時の大学に所属していた黒人選手は遠征先のホテルで入室を拒否され、駐車場にあった車の中で寝ていたというエピソードが数多くあり「プレー」する前に「生き抜く」ことが必要だった。そんな中でロバートソンは競技人生を送っており、精神的な負担はウエストブルックの比ではなかったと思う。
プレー・スタイルもすいぶん違っている。21世紀に入ってNBAでは3点シュートの本数が激増。昔はガードしか打たなかった“長距離砲”を今や、フォワードやセンターまでが放ってくるのだ。成功率が30%台の後半に達すると、得点効率は2点のシュートを狙うよりも上という結果が出ているため、どのチームも3点シュートを重要な戦術のひとつに位置づけている。だからウエストブルックだけでなく、ガードがインサイドに切り込んだあと、コーナーで待ち構えているチームメートにキックアウト(外にパスを出すこと)する場面が増えた。そしてシュートが成功すればパサーにアシストが記録される。60年代は個人技主体。これほどボールがムーブすることはほとんどなかった。
さらに60年代にはほとんどなかったアリウープも記録に貢献。これはふわりとボールを浮かせ、サイズの大きな選手に空中でタッチさせてダンクに持ち込む戦術だが、ダンクだけに成功率は高くボールを浮かせた選手にはアシスト「1」が記録される。アシストと言えばジョンソンに代表されるような「ノールック系」がこれまでは“華”だったが、今やその主流は3点シュートとアリウープに奪われつつある。
ではウエストブルックの偉業がトーンダウンするかと言えばそれも違う。なぜならガードがトリプルダブルを達成するにはリーグでは小柄(ウエストブルックは1メートル93)ゆえにリバウンドでは苦労する。しかし彼は抜群の身体能力(走力、加速力、跳躍力)を生かすためにディフェンス時にはトップの位置にいても相手がシュートを打てば必ずゴール下に入りこんでくる。反転速攻に出るなら、仲間にパスをもらうより自分で最初からボールを運んでフィニッシュに持ち込んだ方がスムーズに事が運ぶからだ。その労力たるや他の選手の比ではない。しかも彼は42回目のトリプルダブルを達成するまで開幕から80試合、一度も欠場しなかった。
サンダーは今季47勝35敗。西地区全体6位でプレーオフに駒を進めたが、チームを最後まで支えたのがウエストブルックだった。もしそこにトリプルダブルという副産物がなくても、彼は立派なシーズンMVPの有力候補だと思う。
さて最初に年間トリプルダブルを達成したロバートソンはプレーオフの最初のシリーズ(西地区準決勝)でピストンズに1勝3敗(5試合制)で敗退。記録の概念もなかったので結局、味気ないシーズンを送ってしまった。
さてウエストブルックはどうなるのか?もしサンダーがファイナルに進出して初優勝を飾るなら、2度目の得点王を含めて前人未到の“トリプル快挙”となり、ロバートソンとはまったく違った評価が待っていると思う。(専門委員)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。
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