大声の意外な効果 末続慎吾が陸上教室でかけた“魔法”
2019年05月16日 10:00
陸上
2003年パリ世界選手権男子200メートル銅メダリストで、同種目の日本記録(20秒03)保持者は15日、大阪市立野里小の校庭にいた。大阪市が主宰する「夢・授業」で5年生の講師を務めた。多少のレッスンはあったものの、教えるというより、子どもの力を引き出す陸上教室。足が速かろうが、遅かろうが、みんなワイワイガヤガヤ、楽しそうだ。きっと声の効果。50分の特別授業は、大盛り上がりのまま終了した。
「僕のクラブのコンセプトでやらせてもらったのが強いですね。速く走ることだけではなく、その空間が楽しいので。その年齢ならではのかけっこの空間を作りたかった。どうすれば速くなるかという部分は、これから自然と身につくし、考えたりするし」
真っ直ぐな瞳と屈託のない笑顔で、1日を振り返った。08年北京五輪男子400メートルリレーの銀メダルメンバー(1着失格で銅から繰り上がり)でもある名スプリンターは今、現役と併行しながら神奈川県平塚市で「イーグルラン」というクラブチームのオーナーを務める。強い選手を育てることは目的の一つ。しかし、勝敗だけにこだわってはいない。
目指すのは、競技レベルが上がるごとにふるいにかけられる「ピラミッド型」組織ではなく、「円型」のコミュニティー。競技志向にかかわらず人と人とがつながり合う「包括的な世界」を理想に掲げる。下は2歳から、上は80歳までの約70人が在籍。“声出しかけっこ”は、そこで取り組んでいるものだ。
この日の「夢・授業」をサポートをした「イーグルラン」の荒川優代表コーチは、「いつのまにか、後ろにいた子も引き込まれていたでしょ」と、野里小の子どもたちの変化を指摘した。走ることは本来楽しいこと。しかし、記録や人の目という社会の価値観によって、「遅いから走るのが嫌」という子どもが出てくるという。
大きな声を出すことは、劣等感などを吹き飛ばす一つの手段。「走らなきゃ」から「走りたい」と前向きになれば、タイムも自然と伸びるという狙いだ。
大人ならストレス発散、子どもなら元気の源。野里小児童の「楽しかった」という弾んだ声が充実を物語っていた。大声と陸上。意外だけど、とてもいい組み合わせだ。(倉世古 洋平)
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