日本、歴史変えた初8強!スコットランドに4年前の雪辱 リーチ「気持ちとフィジカルの強さで勝った」
2019年10月14日 05:30
ラグビー
「最後まで諦めない心、正念場でやりきることができた。今、こういう状況ではあるが、我々がホームのW杯を戦うことができたのは、いろんな人のサポートがあったから。素晴らしい力になった」。ジョセフHCは喜びに浸るだけでなく、哀悼と感謝の気持ちを込めて言った。
4年前に唯一敗れた相手に、4年前にはなかった技術で切り崩した。タックルを受けながら放つオフロードパス。前半のWTB松島とプロップ稲垣のトライは、この曲芸技で生まれた。特に稲垣の一本はチームが生んだ一つの芸術。フッカー堀江が敵陣22メートル内に進入し、ムーア、トゥポウ、稲垣へと、全てオフロードでつないだ。
「地力が付いてきたということですね」。堀江は胸を張った。エディージャパンでは厳禁とされた技術。日本ラグビー界では、ほぼタブーだった。つながれば最短距離を突破して好機を生むが、ミスをすればピンチを生む。しかしジョセフHCは就任以来、手品のようなパスワークに練習時間を割いてきた。世界的な戦術家として知られるトニー・ブラウン・アタックコーチは「ラグビーという競技がめまぐるしく進化している。それについていくことが大事。一つの戦術に一生懸命取り組む。絶対にできると思った」と言う。コーチが選手を信じて積んだ努力の結晶が、美しいトライを生んだ。
「ONE TEAM」。ジョセフHCが16年9月の就任時に掲げたスローガンはシンプルだったが、実現への道のりは険しかった。最初の2年は選手との衝突を繰り返し、特にリーダー格の選手を厳しい言葉で叱責(しっせき)した。16年秋から1年、共同主将を務めた堀江は「モチベーションが下がるようなことも言われた」と振り返る。求めたのはチームへの忠誠心。代表として誇り高く戦う自己犠牲の精神だった。
昨秋の欧州遠征で、故障を抱えたままプレーを続けたある選手が、帰国後に重傷であることが判明。所属チームの試合に出場できない事態を招いた。原因は、医療スタッフのミスジャッジ。ジョセフHCはチームから外すように当時の薫田真広強化委員長に求めたが、そのスタッフを招へいした日本協会幹部の顔色をうかがった同氏は首を縦に振らなかった。全てを犠牲にしている選手に、これでは示しが付かない。大会直前の強化委員長の電撃交代劇は、指揮官の「ONE TEAM」の思いそのものだった。
大一番に特別な意味を加えたのが、日本列島を襲った台風19号だった。開催が危ぶまれた1次リーグ最終戦。中止でも1位突破が決まる状況でも誰一人、それを望む者はいなかった。朝のミーティング、「19人が亡くなり、12人が行方不明と聞き、それをチームに伝えた」というジョセフHC。リーチ主将も「今日は僕たちだけの試合ではなかった。試合を実現するため、いろんな人が努力した。こういう時こそ、こういう試合が役立つと分かっていた」と言った。どんな逆境でも諦めずに乗り越える。その姿を見せることが、ピッチに送り出された者の義務になった。
後半2分のWTB福岡のトライとゴールで21点差。スタジアムにまん延し始めた楽勝ムードがピンチの始まりだった。7分後に1トライを許し、さらに5分後に取られて7点差。残り10分からは自陣でくぎ付けにされて防戦一方となった。不屈の闘志が相手を追い掛けるスプリント一本、タックル一本に宿った。残り2分でターンオーバーした後は、ボールをキープするためにラックをつくり続けた。フォワードだけでなく、松島らバックスも密集に飛び込み、体を張って耐え抜いた。後半32分の交代後、係員に注意されるまでサイドライン近くで仲間を見守ったリーチは「今日はスキルだけではなく、気持ちとフィジカルの強さで勝ったと思います」。言葉だけでなく、戦いざまで日本を勇気付けた。
史上初の準々決勝の相手は、4年前に倒した南アフリカ。20日はこの大会を誰よりも楽しみにしていた、故平尾誠二氏の3度目の命日でもある。特別な試合を、再び日本中が一つのチームになって戦う。四方のスタンドの一礼を終えると、最後の円陣でチームソング「ビクトリーロード」を歌った日本代表。この道をずっとゆけば、最後は笑える日が来るのさ。リーチは「日本の代表として、次の3試合、やっていきたいと思います」と言った。その視線には、準々決勝の先の先にある栄光が映っていた。
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