9秒98の裏にあったドラマと指頭感覚 桐生祥秀専属の後藤勤トレーナー
2020年11月24日 11:59
陸上
「針灸には、『指頭(しとう)感覚』っていう言葉があるんです。それこそ、『指頭感覚』という文献があるくらい、この職業には大切なものです」
皮膚の下は、精密機械のように筋肉や神経が張り巡らされている。指から伝わる情報で、見えない世界のちょっとした変化を感じ取らなければならない。針を打ち、ほぐし、痛みを和らげ、バランスも整える。桐生の体もこうして治療してきた。指先が繊細でなければできない仕事だ。
「うれしいのは、相手が抱えている痛みと、自分がこうすれば治ると思ったことがはまったときですね。スポーツ障害は、“ココをツンツンすれば、痛みや張りが取れる”というのがある。そういうパターンがはまったときに、トレーナー冥利を感じます」
桐生の東洋大進学を機に、専属になった。17年9月、日本学生対校選手権。日本人初の9秒台(9秒98)も間近で見届けた。
実は、決勝は走れるかどうかの瀬戸際にいた。その1カ月前。ロンドン世界選手権男子400メートルリレーで銅メダルを獲得した際に、左太もも裏に強い張りを発症した。強い練習ができないまま大会を迎えた。予選、準決勝で久々にスパイクを履いて力を出したことで、再び脚が悲鳴を上げた。
「極度の筋肉痛が起きていました。もし、その時だけしか担当をしていなかったら、状態がどの程度か分からなかったと思う。でも、桐生のこれまでのたくさんの筋肉痛を知っていたので、ゴーサインを出せたと思う」
過去には、猛練習で脚がもっとパンパンに張ったことがあった。指先に残る当時の感触を思い出しながら、土江寛裕コーチに「あの合宿に比べたら、まだ行けますよ」と伝えた。選手、コーチの話し合いで結論が出た。
「出ると決まったあと、自分で伝えると言って、(待機場所を)出て行きましたよ」
決勝当日、桐生は報道陣の前に突然、姿を見せて「走ります」と宣言した。驚いた行動と大記録の裏には、そんなやりとりがあったのかと、懐かしむ。
後藤さんは普段、愛知県岡崎市に構える鍼灸院で患者を見ている。地域に根ざしている。モットーは「アスリートも、小学生も、80歳も同じ気持ちで接すること」。どのメディアにも丁寧に対応する後藤さんの人柄がにじみ出た言葉。どうりで、その手が温かいわけだ。(記者コラム・倉世古 洋平)
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